天才とはよく言われるところだけど、この映画で松岡茉優の凄さを初めて理解した。また受ける立場の渡辺大知の好演も大きかった。最初は鬱陶しく感じられるんだけど、話が進むにつれて、その姿勢の真っ当さが格好良く思えてくる。特に最後のやり取りのシーン、よかったですよね。
最初はヨシカに感情移入して、その一方でニの空回りぶりに胸をかきむしられ、思い当たる節が多すぎて悶死必至。青春のままならなさというのは、いつの世も同じということですね。(ところで、ご多分に漏れず、僕も『(500)日のサマー』を連想したのですが、あちらの主人公については、終盤、気にかけてくれていた会社の人々に対して心ない発言をするところで一気に醒めてしまったので※1、気持ちよく観終ることができた分こちらに軍配が上がるかな。)
全体としてセンスの塊みたいな演出も冴えてた。監督は人力舎に在籍していただけあって、気が利いたやりとりのキレも最高。小劇団風のダイアローグというのはこの10年くらい(もっとか?)で完全に定着した感があって、世間一般の若い人のやりとりにまでそのメソッド的なものが浸透してる気がするのだけど、一周してそれが今のリアルを映しているようにも思われました。
名前の持つ呪術性というか、名前を呼ぶ(呼ばれる)ことが、自分をその他大勢でない唯一無二のものとしてアイデンティファイする要素として劇中いわば通奏低音のように描かれるのだけど、その流れでニの本名が最後の最後に明かされるので鳥肌が立つ思いでした。その一方で、主人公が「この世界にはその他大勢なんていないんだ」ということを知る成長の物語にもなっている。※2
そしてあの付箋ね。色使いといい、その顛末に胸を撃ち抜かれました。
☆☆☆☆☆
※1 こちらでも似た展開がまああるのですが、理由は理解できるし、結果にちゃんと向き合うので。
※2 そもそも主人公こそが、恋愛対象をイチとニと抽象化することで、自分と同じ内面を持つ具体的な相手として向き合うことを避けてきたのだけど。