ビデオスルーという状況と邦題からすると、一番有名な出演者がスコット・アドキンスのB級アクション、みたいだけど全然違います(いや、そういうのも好きなんだけど)。観終わった後あまりに面白くて、つい久しぶりに感想を書きたくなった次第。
デニス・ルヘインのクライムストーリー、と書くと大体想像できると思うし、概ねその想像は外れていないのですが、情緒に訴えかけようとするあまりの小賢しさが鼻につく、みたいな感じがこれまでの彼の映画化作品の弱点とすると、それが見事に克服されている。自身の脚本作なので、そこに意識的だったのかもしれませんが、監督の功績が大きいような気がしました。
とにかく犯罪と地続きの日常を描写していく演出のリズムが素晴らしい。特に大きなことが起こる訳ではないのだけど、我々が思う平穏な生活とは違うルールで律されている世界がここに確かにある、と思わされる※。また、語り口の点で巧みだなと感じたのは、主人公の青年の犬を介したヒロインとのふれあい、身の程を過ぎた捲土重来を期する初老の男マーヴ、裏社会の資金ルート、何かを嗅ぎ付けていると思しき刑事、正体不明のならず者といった複数の物語が輻輳して、話の落ち着きどころがなかなか見通せないところ。それでいて観客に情報を提示するタイミングは的確なため、ぐいぐい惹きこまれる。
充実した役者陣も大きな要素で、トム・ハーディの「過去の経験から大きな喪失感を抱えていても、絶対に譲れない芯がある」主人公像が魅力的だし、悲哀を感じさせる「足掻く男」J・ガンドルフィーニも見事。精神面に問題を抱えているヒロイン、ナディア(ノオミ・ラパス)もあえての安っぽさがいい。けれども一番上手いと思ったのは、『君と歩く世界』での好演の記憶も新しいマティアス・スーナールツ演じるエリックの薄気味悪さ。主人公ボブの平穏な日常を脅かす闖入者として要所に登場する(過去の不穏な「武勇伝」も含めて)のだけど、この映画がさらに素晴らしいのは、そんなプレッシャーをかける側であるはずのエリックが、場末のカフェで不意にボブから声をかけられた時、一瞬なんだけど気おされて見えるところ。そういう些細な違和感が後から効いてくるんですね。
好みからいうとエンディングがやや甘すぎるけど、それは求め過ぎというもの。拾い物という言葉では全く足りない傑作だと思います。
☆☆☆☆1/2
※凋落していく自身を客観視できなくて、深みにはまっていくという展開もそうですが、演出のトーンも含めて『エディ・コイルの友人たち』を参照している印象がありました。その一方で『ロッキー』みたいな匂いもあってね。そういう種々を踏まえた上での「結末」だからな・・・巧いな本当に!