クリーチャーズ 異次元からの侵略者(ドン・コスカレリ)

 『プレスリーVSミイラ男』以来のコスカレリ新作。『プレスリー〜』は人生の終わりが見えてきた男の諦念と矜持を描いて、監督自身の想いが重ねられていたからなのか、意外や枯れた味わいのある佳品になっていましたが、今回は『ファンタズム』ファンも納得なシュールなホラー/SF。おそらく(出演もしている)ポール・ジアマッティがプロデュースを買って出たこともあり、結構リッチな画を獲得しております(まあベクマンベトフの「ナイトウォッチ・シリーズ」程度には。)
 監督のファンなら改めて説明するまでもないことでしょうけれども、コスカレリは夢のシッポを捕まえるのがとても上手い。誰しも「昨日の夢、めちゃくちゃ変な話だったな・・・でも映画にすれば面白くなるかも」という気持ちになったことがあると思うのですが、普通のひとなら5分で忘れてしまうそのような体験を、雰囲気ごと見事に形にしてしまう。映画の中で起こっている物語はあまりに突拍子もないものだけど、不思議とその世界の中の論理では筋が通っているかのように思えます。
 今回の作品も大枠では主人公のデヴィッドがジャーナリスト(これがポール・ジアマッティ)相手に「信じられないような本当の話」をするという『ライフ・オブ・パイ』方式なんだけど、その「話」の中でも時系列があっちこっちへ脱線するから複雑極まりない。彼はソイ・ソースというドラッグを摂取したことで異次元の存在を知覚できるようになったのですが、そのせいである存在と対決せざるを得なくなってしまったという。果たして彼に平穏な日々は帰ってくるのか・・・ただ、複雑な構成にも関わらず、物語そのものはストンと腑に落ちるので、監督のストーリーテリングの技術はもっと評価されてよいのかもしれないですね。この調子で『ファンタズム』の新作も観てみたいものです。
☆☆☆1/2
※ホットドッグで交信してみたり、ドアノブがチンチンになったり、間一髪、犬が運転する車で危機を脱したり、という気が違ったかのような画をことさらにふざけることなく平熱で撮り切ってしまえるのが、この監督のチャームポイントといえましょう。いってみればケリー・リンク的なストレンジ・フィクションの色あいもあったりして。