今回の短編集の編み方とあとがきからすると、伊藤典夫さんの好みの作品は僕の好みの傾向とは違うんだな、ということが明確に。大雑把にいうと、伊藤選作品は無難に気が利いたオチ話といった印象。
ラファティに求めているのは、書いてあることはメチャクチャなんだけど、どこかで深遠なる真実にアクセスしてるんじゃないかと思わせる神話的なトール・テールであって。伊藤氏あとがきによると(僕のラファティ短編ベスト5のひとつである)『山上の蛙』(浅倉久志訳)の意味がさっぱり分からなかった、とあったのですが、物語の寓意や構造に必然性や整合性がないとスッキリ飲み込めない、ということなのでしょうか。あの話は単純に「壮大で格好よい冒険譚」というだけでもすごく面白いと思うんだけどなあ。
という訳で、今回の収録作で一番だったのは、やはり浅倉訳の『廃品置き場の裏面史』でした。悪名高い犯罪者と頑固な叩き上げ警部の攻防。二重、三重のツイストがあるのがいつもの作風からするとちょっと異色なんだけど、全ての決着がついたあとの、寂寥とともにある安寧のような複雑なテイストが『悪魔は死んだ』に通じるところがあってすごく好みでした。
☆☆☆