ファミリー・ツリー(アレクサンダー・ペイン)

 大仰な話運びではないのに、そして劇的なことは何も起こらないのに、不思議と惹きつけられるのがこの監督のストーリーテリングの素晴らしさですね。映画の展開のために「配置した」と感じられるエピソードがない自然な語り口。有機的な構成とドライブ。
 当人にとっては真剣な場面なのに、傍から見ているとなんだか苦笑いしてしまうような状況設定がまた巧みで。主人公の妻の事故の当事者となってしまった男の言い訳がましさ(でもその気持ちも分かる…)、娘の不幸を笠に着た義理の父親の身勝手な言い分、ああこういう出口の見つからない気まずさってあるよなあと、身につまされる感じ※、このいわく言い難い空気まで含めた「シチュエーションの構築力」が監督最大の武器なんだと思います。
 それと登場人物の等身大のしょーもなさの演出。とりわけ娘の友人(彼?)であるシドはいかにも今時のチャラい感じの青年で本当にしょーもない感じ。そうそう、こういう奴実際いるよね…なんだけど、主人公との深夜のやりとりを通じて彼にも事情があることが分かってくる。そして「なんで部外者のお前がここにいるんだ?」とあらゆる人から白い眼で見られても意に介さず、最後までアレクサンドラの隣にいてあげる。そこまで付き合う義理はないにも関わらず、実は意外に芯のある男だったことが分かる。
 というように、シドの存在に端的に描かれていたように感じたのですが、まあ人間だれしも聖人君子ではありえないのだけど、でもそれだけでもないよ、ということを思い出させてくれる、いい映画でした。
☆☆☆☆
※この居たたまれなさ感が爆発していたのが『ハイスクール白書』だったと思います。