中堅の編集者ダビッドは社長直々に特命を受ける。曰く「トマス・マウドを探せ!」彼はこの出版社の屋台骨である『螺旋』の作者だったが、極度の秘密主義で社長にすらその正体を明かしておらず、しかも完結編を送ってこないまま音信不通になってしまったのだ。6本指の持ち主で、とある人里離れた村に暮らしている、というヒントだけを元にダビッドの探索が始まった・・・
「失われた作家を求めて」という話だったので、ピーター・キャメロンの『最終目的地』を連想しました。妻/彼女との関係が難しいところに差し掛かっている、という主人公が置かれている状況も似ているし(しかも青二才的メンタリティ)、舞台が閉じたコミュニティというところも似てる。個人的な聖杯探求譚というか。実はこういう設定が大好きなので、冒頭から嬉しくなりました。
ただ最大の相違点はサイドストーリーで、この小説の最大の特徴といってもいいと思うのですが、ダビッドの起こした行動を切っ掛けとして、『螺旋』という作中小説を巡ってバタフライ効果のように関係していく人々の連鎖を平行して描いていきます。その連鎖は巡り巡って・・・というのが読ませどころ。客観的に見ればごくささやかな事件なのだけど、登場人物各々の中でそれがやがて決定的な意味を持ってくる、という過程を丁寧に書き込んでいくストーリーテリングが良かった※。全体として広義のミステリの体裁でもあるのだけど、人と人との心の距離感に最大のサスペンスが醸成される、という点がなかなか巧かったですね。
厳しいことも書いておくと、作者25歳のデビュー作ということもあり、(ちょっとご都合主義的な「大団円」含め)些か若書きの詰めの甘さは否めない。ただその瑞々しさが魅力でもあるので良し悪しなのですが。と書いていて思ったのは、スペインの作家ということもあり、若い頃のアレハンドロ・アメナーバルが映画化したら面白かったかも、ということでした。
実は冒頭の作家と編集者のやりとりのエピソードがすごく良かったので、じっくりひとつに絞った話も読んでみたかった気がします。何だかあれに似てる、これに似てるという話ばかりになってしまったな・・・
☆☆☆1/2
※サイドストーリーの話者が空中ブランコのように交代していくスタイルは『欲望の翼』の語り口を連想させます。