深夜の告白(ビリー・ワイルダー)

 定番の名作をちゃんと観てみよう(自分内)シリーズ。正確な映画史上の位置づけは分からないのだけど、ノワールの定型を作った作品ですよね。保険金殺人詐欺を扱ったサスペンス。しかしジェームズ・M・ケイン原作をレイモンド・チャンドラーが脚色って、なんとまあ贅沢な作品であることよ。主人公のモノローグなんかは実にチャンドラー節が効いてて、それだけで持っていかれる感じ。
 そしてバーバラ・スタンウィックの見事なまでのファム・ファタールぶり!でも正直好みな女優さんではなかったので(むしろ娘さん役のジーン・ヘザーの方が・・・)、主人公が泥沼にはまり込んでいく過程に殆ど感情移入できず・・・(こういう話だとそこは重要ですよね)。
 しかしさすがにラブコメディでも知られる名匠ワイルダーだけあって、ただの陰惨なノワールに終始せずに友情ものという側面もあって。保険会社内の同僚調査士キーズが実に良いキャラ。口は悪いけれど、腕が立ち、人情味ある人物として本当に魅力的なんですね。見ている間、主人公の運命云々よりも、キーズを失望させないであげて・・・とずっと思っていました。この人がいるといないとでは作品の厚みが随分違ったと思います。そして結末に泣かされる・・・
 ともあれ、もともと脚本家出身だった監督の脚本の巧みさ(共同脚本)を改めて感じさせる作品でもあります。他の作品も改めて見直してみようかな。
☆☆☆☆
※キーズには「その保険請求にちょっとでもクサいところがあると、俺の胸の中の『小さな男』が騒ぐんだ」という名セリフがあるのだけど、この辺り、村上春樹は影響受けている気がするなあ。
※焦ってるのに車のエンジンがスタートしない!というサスペンス醸成の演出は、この頃からあったのですね。