観光(ラッタウット・ラープチャルーンサップ)

 あまり乗れませんでした、ということを先ず記さねばなりますまい。いじわるな言い方をすれば、いかにもクリエイティブ・ライティングコース出身らしい頭でっかちな内容に感じられて。「英語圏受けするエキゾ趣味」で彩られているのもなんだか鼻に付く。確かに引き出しは多くて、「タイ女性と結婚した息子に引き取られた自分を不甲斐なく思うアメリカのおじいちゃんの一人称」という作品もあったりするのだけど、こういうのも書けますよという出版社向けのポートフォリオかショーケースといった趣で。端的にいうと、器用さが先立ってハートで書いてない印象を個人的には受けました。
 別に「作家は自らのはらわたをさらけ出してなんぼ」というつもりもないのだけど、切実さの感じられない小説には心を動かされない。その観点から良かった作品は、徴兵のくじ引きを親のコネで免除される青年の心の揺れを描いた『徴兵の日』。誰もが大人になる過程のどこかで感じるはずの「居たたまれなさ」を上手く掬い取っていました。それはやっぱり(実体験ではないかもしれないけど)、作者の実感から語られた、地に足のついた物語だからだと思います。
 もう一つのよかった作品は、過去の因縁から闘鶏の深みに嵌る父親の姿を描いた『闘鶏師』。こちらは思い切り「クリシェ上等」で、物語をドライブすることに専心している潔さが好きでした。
 作者のプロフィールを読まずに虚心に接したらよかったのかな・・・
☆☆☆