犬の力(ドン・ウィンズロウ)

 各方面で激賞されていたので期待値がやや上がりすぎていたのかも・・・思ったよりあっさりな読後感でした。ただクライマックスに向けてドライブされるストーリーテリングの妙は、さすがに筆者だけあって安定感がありました。(顧みるに『ボビーZ』はこの作品の習作的な感じだったな。)
 ちょっと肩透かしな印象の理由を考えると大きく2つあって、1.30年という長い期間を対象にしている割に「クロニクル感」に乏しい(これはどういう物語を期待していたか、という先入観とのギャップも大きいと思うのですが)。2.主要人物たちが割りと早い段階でストーリー上の配置が決定してしまう。そのためあまり「運命のいたずらで」というプロットの醍醐味が感じられない。という点。
 ただ、麻薬戦争の供給側と取り締まる側という二つの勢力(配置)に縛られていないのが、国のエージェントとしてグレーゾーンの汚れ仕事を引き受けるスカーチと、ヘルズ・キッチン出身の不良少年で名うての殺し屋となるカランで、それ故登場人物の中でも魅力的。特にカランは自らの意思に関わらず、状況に流されるまま、ただ殺し屋として適性があったからという「わらしべ長者」(ちょっと違うけど)的な面白さがあって、彼に関するエピソードが個人的には一番盛り上がりました。残念なのは、デウス・エクス・マキナ的な駒としてのポジションが見えすぎてることかな・・・
☆☆☆1/2