マジック(リチャード・アッテンボロー)

 さえないマジシャン、コーキーは、腹話術人形のファッツを相方にすることで一夜にして人気者になった。やり手のエージェントであるベンに見出されTV出演のチャンスを得るが、彼は精神の不安定さを見抜かれるのを恐れて故郷の田舎町に逃げ込んでしまう。故郷でかつての憧れの女性と再びめぐり合い、ひと時の安らぎを得るコーキー。しかしファッツはそれを快く思わず・・・
 まさしくウィリアム・ゴールドマン作品でした。脚本家仕事としては珍しいくらい。セリフやシチュエーションにおいてここまで癖が表面に出てくる映画は初めて観た気がします。そしてもちろんなんといっても、作者のトレードマークである「偏執的なキャラクター」ですね。アンソニー・ホプキンスは見事な演技で体現していました。取り憑かれた人間が主人公のサイコサスペンスの佳作。
 そしてガジェットとしてのファッツの造型が素晴らしく、気持ち悪い。(小さい頃かなりビビッた記憶があります。腹話術人形とピエロはやっぱり面白いようで怖い。)小心者の抑圧された自我の表出として主人公を代弁する存在、ということはつまり、あまりにも分かりやすくオルター・エゴな訳ですが、住み分けが徹底されるあまり共依存に陥ってしまう(もともと独りなのに!)という描写に捻りがあって面白かった。
 逆に言うとアッテンボロー監督作品としては、かなり脚本に引っ張られてしまった感がありました・・・と書こうと思ったんだけど、『ガンジー』は「非暴力による独立」に取り付かれた男の話だし、『チャーリー』はコメディ映画に取り付かれた男が主人公、という意味では筋が通っているのかもしれませんね。
☆☆☆1/2