そもそも勝手な思い込みだったのだけど、『殺人の追憶』からこの作品まで観てきて「ああ、監督の志向は俺の期待していた方向ではなかったのだな」とようやく得心。
すごく乱暴なカテゴライズですが、復讐3部作以降のパク・チャヌク作品的というか『チェイサー』的なジャンルが韓国映画にはあるような気がします。例えば『チェイサー』を観た時、「これは・・・凄い」と率直に思ったのですが、「思う映画を躊躇なく作る」というスタンスは賞賛に値すると感じた一方で、この方向性は先鋭化するしかない袋小路ではなかろうか?と思ったのも事実。
『チェイサー』と比較すると、この作品はサスペンスとしての結構がしっかりしているし、要素の出し入れの手つきも繊細ですが(出口のない状況設定の緻密さ!)、物語がある種の「過剰さ」に依拠しているのも否定し難いところだと思われます。個人的に今までの監督作品で一番好きなのは『ほえる犬は噛まない』なのですが、それはシビアなテーマも扱っていながら、どこまでも語り口が軽やかだったから。登場人物が真剣なほどに笑える、というシニカルなユーモアも『母なる証明』には相変わらずあるのですが、やっぱり「ほえる犬」とは立脚点が違うというか・・・とはいえ、もう一つのトレードマークである「グラフィカルなレイアウト」については、いつもながら唸らされる素晴らしさでした。
☆☆☆☆1/2
※ラテン調のテーマ音楽がとても良かったことも書いておかないと。