青春の殺人者(長谷川和彦)

 市原悦子原田美枝子につきる、と言い切ってもいいのではないでしょうか?もちろん一番勢いのあった頃の水谷豊の焦燥感溢れるギラギラした演技も良かった。(内容に触れます。)
 この映画を紹介するのに「理由なき殺人」という言葉で語られることが多いようですが、(実際に手に掛けるかは別として)理由は充分すぎるほどではなかろうか、というのが見終わった後の感想で。独善的な両親の気まぐれで、大学紛争を恐れて大学進学を諦めさせられ、無職では体裁が悪かろうというのでスナックを経営させられ、店員として雇った幼馴染と付き合いだしたら「身持ちが悪い娘だから」と別れさせられそうになり、それを拒むと聞きたくもなかった具体的なエピソードを無理やり聞かされ、ついに・・・
 市原悦子の怪演が、本当に壮絶。大人になるに従って、映画なんかの描写からトラウマになるほどショックを受けるなんてこともなくなるわけですが、母親をついに殺すに至るまでの濃厚な描写は久しぶりに具合が悪くなるような強烈さでした。父親の死体を目にして、まず息子を庇おうと証拠隠滅を唆す母親。あれこれ指図する言葉の端々から、主人公が「この状況」にまで追い詰められた所以である異常な溺愛ぶりが垣間見えるのが実に巧みです。そして何かが切れてしまったのか、「しよう」とまで迫り、拒まれると一転、無理心中を図り、逆に殺されてしまう。その最後さえも「ひと思いに殺して」というのに素人のかなしさで、なかなかとどめを刺せず、「痛い、痛い」と叫ぶのが何ともリアルで。しかもそれでいて終始「まんが日本昔ばなし」調のあのトーンでじわじわとなので・・・うーん書きながら思い出してまた具合が悪くなってきた。それはさておき、演出上の狙いだったのだと思いますが、まるで舞台劇のようなゴツゴツしたぎこちないセリフ回しがここではとても効果的だったように思います。
 そして原田美枝子。ネット上の感想を読むと、終始ハイテンションの演技にイライラさせられた、というものも散見されるのですが、ヒロインの役どころを考えると、主人公の順と同じく不幸な家庭環境から行き場を失った彼女の眼には、順と寄り添って生きていくことが人生の唯一の脱出口として映っていたのではないか?その必死さを反映しているという点で個人的にはむしろナチュラルに感じられたのでした。(というか、劇中ずっと、ケイ子に辛く当たる順に対して「もっと大切にしてあげてよ!」と思ってた。)
 けれども中上健次の原作『蛇淫』(未読)のタイトルやあらすじを読むと、そして冷静にこの作品の構成要素と結末を考えると、ヒロインはむしろ明確にファムファタール的存在であって、主人公は彼女の肉体に欲望を覚えるとともに疎ましさも同時に感じている、というのが当初の演出プランだったと考える方が確かに自然ですね。ところが、原田美枝子の17歳という年齢の持つ溌剌さに押し切られるように、映画自体が変質していったということではないでしょうか。それが映画の化学反応というものなんだろうと僕には思われました。
☆☆☆☆1/2
※ところで今までインタビューを読んでいて、監督はよく松山千春的な口調で再現されてるけど実際どうなんだろうと思っていたのですが、特典を見ると本当にそういうしゃべり方の人なんですね。ちょっと笑った。
※そういえば中学生の頃、タイトルクレジットにATGってあったり、女優名の横に(新人)ってあったら、これはHなシーンがあるに違いない!とドキドキしていたことを思い出しましたよ。