パンドラの匣(太宰治)

 竹さんに川上未映子、マア坊に仲里依紗というキャスティングを思いついた人、まさに慧眼。映画はまだ観てないのですが・・・きっと観る!本当にピッタリのイメージで、今となってはそれ以外がちょっと思いつかないほどでした。
 主人公「ひばり」は戦時下で結核を患い、「健康道場」という名の療養所に入る。そこでの他の様々な患者たちや魅力的な助手(看護婦さん)とのやりとりを「君」あてに書き綴る、という書簡小説。僕も映画化がきっかけで読んだ口なのですが、あまり悲壮な感じはなくて、とても爽やかな印象の青春小説になっていました。
 唸らされたのが、追えば引き、退けば押してくるという男女の恋愛の力学を書簡小説の構成内で描く太宰の技巧。マア坊というキャラクターは、ややこしいというか、やっかいな女の子で(というのはつまり普通の女の子なんだけど)、事あるごとに主人公はグッときたりゲンナリしたり振り回されるのという、その若さゆえのコケットリイといった描写が実に上手くて感心しました。
 もう一方のヒロインである「竹さん」は関西言葉が魅力の大人の女性で(というところが実に川上未映子だなと思ったポイントなのですが)、健康道場の助手たちを束ねるお姉さん的ポジション。物語上は殆ど点描として登場するに過ぎないのだけど、なんだかしゅっとしたイメージが自ずと立ち上がってくるのが素晴らしい。そして結末にはささやかなドンデン返しが・・・
 期待値が高まった分、実際に映画を観た時失望したくないなあ(原作ファンにも好評のようですが)。『人間失格』や『斜陽』のイメージがある方は、いい意味で裏切られると思います。太宰には『走れメロス』というサニーサイドもある訳で。青空文庫化もされていますね。→http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1566_8578.html
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