生きるべきか死ぬべきか(エルンスト・ルビッチ)

 初ルビッチ。『イングロリアス・バスターズ』のサブテキストとして。ヒットラー列席のプレミアナイトという設定の元ネタはこの映画だったんですね。(そういえば『フリッカー、あるいは映画の魔』にも監督への言及があったような。)
 知恵の限りを尽くして脱出を図ろうとすると仲間との呼吸が噛み合わず、その一方でほとんど妄想みたいな思い付きで暴走していたら奇跡的に辻褄が合ったり、という人物の出し入れや場面展開の巧みなこと!また「強制収容所のエアハルトと呼ばれてますか?」のセリフのテンドンを始めとして、真面目な顔をしてどんな状況でもめちゃくちゃ自己中心的なことしか言わない劇団長(劇場主?)など、ギャグの引き出しの多さにも感心します。まさしく名人芸と呼ぶに相応しい。
 ところで冒頭、『ベニスの商人』のセリフを諳んじて「俺も然るべき舞台を与えてくれたら、名演技してみせるのに」と三流役者がボヤく場面があって、観てる側はなんだかなあ・・・ってなる訳ですが、後半、同じセリフを「何十人というナチス兵に取り囲まれる」というまさしく一世一代の大舞台において大見得を切るという展開があり・・・これがとても感動的なんですね(1942年製作でルビッチがドイツ人監督というバックグラウンドを考えると特に)。このシーンにはとりわけ上手いなあと思わされました。その場面にも象徴的なように、ただナチスの体制を風刺するコメディということに留まらず、全体としてポーランド賛歌でもあるというところが素晴らしいと思います。
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