最近、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」という様々な立場で海外ミステリに関わる方たちによるブログをよく見に行くのですが、その中で年末にきて書評家5人から立て続けにプッシュされていたこの本。ぜひ読んでおかねばと手に取ったのですが・・・
精神障害の疑いがある殺人犯を収容する留置所。逮捕されたジェインは担当精神科医に、自分は悪を殲滅する組織の一員だと告げる。荒唐無稽な来歴と微妙に食い違う証拠物件。彼女の語る「悪との戦い」はやがて奇妙な捩れをみせて・・・
作家本人の弁によると当初はフィリップ・K・ディックの世界を目指していたとのこと。ジェインの語りが進むにつれ、現実世界と内面世界の境界が融解してグダグダになっていくところにその名残が確認されますが、その方法論に作家自身の切実さはまるで感じられないということも踏まえて、どっちかというと「YA向けチャック・パラニューク」といった風情。惹句になっている結末のどんでん返しも大体「ワイルドシングス」程度と思ってもらえれば間違いない感じ。そのこと自体はまるで悪くなくて、面白く読み飛ばせる読み物として実に良く出来ています。その点は出版社もよく分かっていて、(寺田克也の装画も非常に格好よい)本の装丁はカバーなしの安い紙製。つまり中身も格好も的確にパルプ小説ということですね。ということでトータルプロデュースのとてもよくできた本だと思いました。
☆☆☆☆(小説自体は3.5点)