しみじみ読むアメリカ文学(V.A.)

 僕は巻末解説や解題を読むのが大好きで、それが為に出版の性格上あまりそれらが付いてこないハードカバーの作品は何だか物足りない気がするくらいなんですが、その一方で、本編には大満足だったのにそのアンソロジーの編者がめちゃくちゃ的外れな(独り善がりの)解説を付けてたりすると2割くらい損した気分になる、ということもあるので中々難しい。でも概ね付いてた方が嬉しいものであります。
 さてこの短編集はその点からすると、作品をより深く味わうための作家のバックグラウンドにも簡潔に触れられていたりと、非常に満足度の高い、実に的確な解説でした。メンバーはどうやら英文学研究者のコネクションによるものらしく、もしかしたら翻訳者たちにとってはそれこそ2割くらいは解説に比重があったのかもしれませんね。全体での難を言えば「しみじみ」というくくりにやや苦しい点があることくらいかな。
 収録作家は、ル=グウィンヴォネガット、マラマッドにアーウィン・ショーとメジャーどころを押さえつつも、あまり名を聞いたことのない渋いところからのピックアップも多数。基本的には(社会的立場や時代はそれぞれだけれど)市井の人々の直面したある事件とその心の動きを追ったミニマリスティックな作品を取り上げています。不勉強でル=グウィンがこういう「一般小説」を書いているのを初めて知ったのが収穫だったのと、個人的な好みでは、友人の為にサプライズ・パーティを開こうとする女の子の奮闘とその顛末を描いたアン・ビーティの「大切にする」が良かったです。 
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