ベガーズ・イン・スペイン(ナンシー・クレス)

 テクノロジーの飛躍的進歩によって社会はどのように変わるのか?というテーマを個人的視点からつぶさに検証していくスタイルと、割と思想的というかイデオロギー的な観点から世界を捉えているところからイーガンを連想。ただイーガン作品があまりに突飛な(あるいはグロテスクとさえ呼べるような)アイディアのため、イデオロギー臭が相殺されているのに対して、クレスのものは割りとクラシックなアイディアに拠っているため、その部分が比較的目立ってしまう印象がありました。
 ともあれ、分量的にも内容的にも表題作「ベガーズ〜」をメインとした短編集といえそうです。ネタは定番の新人類もの。遺伝子改変技術によって眠りを必要としない「無眠人」が誕生した。彼らは高い知性のみならず、副作用としての「不老」さえ身につけていた。突出した優位性により少なからぬ社会的影響を及ぼし始める無眠人たち。やがて彼らを妬ましく思う一般人との間に軋轢が生まれて・・・
 ベガーズ・イン・スペインとは「スペインの乞食」の意味で、作中無眠人のひとりが発する例えなんだけど、「同情からひとりの乞食に1ドルを与えることがあるかもしれないが、それが100人だったら君はどうする?」ということ。より具体的には対価を準備できない旧人類と新人類の与える恩恵はどこでバランスを取ったらいいのか、という意味で使われています。僕はここでちょっと待てよ、となったのでした。テーマを際立たせるのにあえて挑発的な言葉とか設定を準備するというのは作家の常套手段だとは思うのだけど、この作品には所謂ノブレス・オブリージュに留まらない意図が含まれているのではないでしょうか。それをつかまえて「スペインの乞食」に例える感覚がちょっと看過できないというか。うーん、まんまと作者の土俵に乗せられたというべきか、「いいお客さん」なのかなあ・・・
☆☆☆
※眠りは「精神的なショックアブソーバー」なのだという話を最近何かで読んだのだけど、その連想で「至高聖所(アバトーン)」という結構前の芥川賞作品に出てきた、心が傷ついたら果てしなく眠る女の子のことをさらに思い出しました。