岡本喜八作品なので一筋縄ではいかないんだろうなとは覚悟してたんですが、結構いびつな構成でしたね。だって5分の1は主人公がクダ巻いてるって・・・
とにかく手を変え品を変えトリッキーな演出が随所に。音楽とのシンクロ、アニメ(トリスおじさん!)、マトリックスのシミュレーションみたいにストップモーションの世界でひとり主人公だけが動き回ったり、主人公の下着談義に合わせて出勤するサラリーマンをみんな下着姿にしてみたり・・・しかし単純に「弾けたサラリーマンコメディ」という訳ではなくて、戦中派の気持ちを主人公に仮託したなかなか複雑な味わいでした。以下メモ。
・ここにも出てくる二瓶正也と桜井浩子の科特隊チーム、よく考えたら平田昭彦も!
・そして岡本作品常連の天本英世と砂塚秀夫も当然出てきました。特に天本英世は珍しく普通のよき同僚(どころかアンクルトリス作者の柳原良平)役なんですが、コメンタリーでインタビュアーの森卓也が「意外と素の天本さんはああいう方だったのかも」というと、監督が「いや、やっぱりあの人は変わってますよ」と応えているのがおかしかった。
・新珠三千代扮する主人公の妻。健気で優しく、しかも所帯疲れしているのに何か色っぽいという風にとても魅力的でした。今まで観た映画での理想の嫁は「Mr.インクレディブル」のヘレンだったけど、この奥さんもステキだったなあ。
・山口瞳は相当波乱万丈の人生だったんですね。浮き沈みの激しい起業家の父親に家族中が振り回されて。東野英治郎演じるオヤジは本当に最低な人なんですが、最低ぶりが素晴らしい。情けなくも哀しい感じは間違いなくこの作品の見所のひとつでしょう。
・事実上のクライマックスは直木賞受賞のくだりですが、(先に書いたように)その後の祝賀会で後輩社員相手に思いをぶちまけるのがだんだん悪い酒になってきて・・・後輩が憔悴していく感じが実にリアルなんですが、実際にかなりの尺を取っているので観客もうんざりしてきます(いいこと言ってるんですけどね)。コメンタリーによるとそれが監督の狙いだったそうです。
・結末は東京オリンピックを直後に控えた工事現場のモンタージュ。モーレツの時代到来なのに、しかし気分が盛り上がってくる感じはしない・・・屈託のあるトーンなのはやはり岡本作品ゆえでしょうか。この時代に至っても戦争の経験がこれほど生々しいものだったとは知りませんでした。
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