ぼくは落ち着きがない(長嶋有)

 模試に出てくる小説や評論(やコラム)の読解問題が好きでした。それは読み物として。というのは、小説だったら出題範囲から想像される全体像が、実際に読んでみるとまるで予想と違っていたりという驚きがあったから(だからギャップがあるほど面白かった)。また評論だったら、短いだけに簡潔かつ大胆に結論を提示してくれるところ。
 そんな僕にとって非常に印象深かった評論があります。それは「今は無二の友人だと思っている仲間たちでも、年を重ねるにつれいつかは離れ離れになり、それぞれの人生を歩むことになる。でもそれは決して悪いことではない」という趣旨のもの。多感な時期でもありショッキングな内容だったのですが(その割りに何で「悪いことではない」という論旨だったのか忘れちゃったんだけど)、一方で若いなりに薄々感じていることでもあったのですね。今の年齢になったので、より感慨深いということもあるかもしれません。(そういう意味で小沢健二のマイベストは「さよならなんて云えないよ」なんですが。)
 さて本作、どちらかというと(作者のコラム・エッセイでの筆名である)ブルボン小林が書いたかのような「学園ものあるあるネタ」に軸足を置いた小説ではありまして。正直、読んでいる最中は「いくらなんでも流しすぎだろう」という印象が拭えなかったのですが、結末に至ってその積み重ねがボディブローのように効いてくる。つまり「しょうもないのだけど、しょうもなくない瞬間」、こういうバカ騒ぎも永遠ではないのだなと学生時代に感じていたあの瞬間が立ち上がる。さすが雰囲気描写の巧者です。
☆☆☆1/2
柴崎友香との対談にあった「携帯が日常風景の青春もの」というのはこの作品のことだったんですね。