幼年期の終わり(アーサー・C・クラーク)新訳版

 クラーク追悼記念+メジャーすぎて知っているつもりになっている古典をちゃんと読んでみようシリーズ。時期はずれなのは、小室哲哉があんなことになって→中学の頃TM聞いてたよなあ→「CHILDHOOD'S END」って考えてみたら読んだことなかったよ・・・というのがきっかけだったからなんですが。
 ところでオーヴァーロード・テーマで上手く決着した物語作品というのが思いつかなくて、漫画ばかりで恐縮ですが、『強殖装甲ガイバー』や『ベルセルク』など連載が長期化した作品は敵味方が相対化されたあげく、こぶしの振り下ろし先に困っている印象があります。(その点『寄生獣』が「種の対決」という物語を意図的にずらしたのは上手い着地点でした。むしろオープンエンドな結末だったからこそ名作という評価を勝ち得たのだと思います。)
 さて、オーヴァーロード・テーマといいながら、フォロワー諸作で参照されているのは殆どが第一部というのはよく分かる話で、「突然圧倒的な優位を誇る種族が社会を作り変えたらどうなるか」という思考実験に有無をいわせぬ物語的吸引力があるからでしょう。そこには「ディストピア萌え」とも通底するものがあるように思われます。
 その点続く2部、3部は「予想の斜め上をいく展開」ではあるけれど、後続作品に慣れた(そして『2001年宇宙の旅』の前哨戦と知っている)今の目で読むと、哲学的な色が濃いこともあって、いささか盛り上がりにかけます。ただ、「その後の世界」の始まりには高揚とも諦観ともつかないいわく言い難い独特の味わいがありました。(ある分野の定番とされる作品には、こういう何か心に引っかかる、単純には飲み下しにくい部分というのが必ずあるような気がします。)
 ところで小説全体のダイナミズムとは別に、「〜略 そういった社会的パラサイトを養っていくのは、大勢の改札係や販売員、銀行員、株式仲買人など、地球的視野からすれば帳簿のある項目を別の項目に移すだけの機能しか果たしていない人々を養っていくより、よほど安上がりにすんだ」というような、作家の意見がこぼれ出てくる場面がやけに興味深かった。引用したところはシニカルなユーモアとして分かりやすい部分ですが、いかがなものかという箇所も正直あるんですよね。
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