ある殺し屋(森一生)

ある殺し屋 [DVD]
 市川雷蔵の現代劇を初めて観たのだけど(それをいったら時代劇もほとんど観てないけれど)、意外と地味ですね。しかしさすがに「スタア」というのか、黙っていても滲み出る迫力があって、表の顔は小料理屋の主人、裏家業は殺し屋という主人公のキャラクターによく合っていた。
 野川由美子が女ねずみ小僧ならぬ「女ねずみ男」みたいに風向きで逡巡なく人を裏切るフーテン女を飄々と演じる一方で、成田三樹夫は成り上がりを夢見て器に見合わぬ賭けに出るヤクザ(最後まで中途半端なのが笑える) −つまりのいつものキャラなんだけど− さすがに上手い。(※ただテレビの探偵物語の頃になるとタイプキャスト的で、小説でいう「手癖で書く」といった感じがして個人的にはいまひとつな印象でしたが。)
 そういった役者陣の磐石なアンサンブルがあって、それを支えるのがカメラの宮川一夫の端正なレイアウト(一見なんでもない画が格好いいと久しぶりに思った)。そして無駄のない筋運び。当時はまだ割りと珍しい試みだったのではないか(そうでもないのかな?)と思われる時制のシャッフルが物語に緊張感を与えていて効果的でした。それでいてランタイムは1時間22分!つまり映画の骨格だけで作られたような作品。それでも骨太ならこれだけ面白くなるというお手本ですね。この頃の邦画の底力にはすごいものがあります・・・
 と書いて締めようと思ったのだけど、あるサイトに当時の評論がいろいろ転載されていて、その一つとして「ここに邦画沈滞の一因」というタイトルで双葉十三郎が「キネマ旬報」に次のような文章を寄せていました。「マカロニ・ウエスタンをちょいと拝借したような感じだし、〜中略〜全体として安手な点も感心できない。が、今日の日本映画の水準からいえば、理屈ぬきに面白く出来ており。森一生監督一生のケッ作などと喜ぶ人物があらわれたのも、微笑ましくうなずける。」大意としては、「自転車操業的に製作→公開していたのでは没落した邦画の再建はならない」という趣旨なんだけど、67年ということでテレビに押されて映画産業が斜陽化していた時期とはいえ、シビアなこと書かれてたんですね。
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