有頂天家族(森見登美彦)

 京の狸の頭領としてその名を響かせた父を失った後、阿呆息子呼ばわりの下鴨四兄弟はそれでも平穏な日々を送っていた。年を重ね、かつての栄光を取り戻さんと次期選挙に打って出る長兄。しかしそこには対抗馬である叔父の姦計が巡らされていた・・・
 作者は早くも「設定と構造だけで書ける」域に達したようで。相変わらず面白いのはよかったけれど、手癖で書いてる感じになると危険かも。ところで風景描写などのディテールには簡潔ながら映像喚起力のある美しさがあって、(ストーリーテリングの巧みさ以外であまり言及されていない気がするけれど)挿入されるタイミングを含めて着実に上手くなってる。こういう殺伐の対極にあるような物語は現在にあっては貴重ですね。(という一方で、やっぱり『きつねのはなし』的な妖幻の世界の方が読みたい気持ちも。)
 さて裏ヒロインの「半天狗」弁天という登場人物がいるけれど、大学教授に懸想されるという設定のせいもあり、天狗つながりで黒田硫黄のキャラ的だなという印象が。だから何となくずっと黒田風のビジュアルを想像しながら読んでました。屋上で茄子の着ぐるみが踊ってるという場面は作者一流の目配せだと踏んだのですが如何? 
☆☆☆☆