映画ファンには『25時』の原作・脚色、『トロイ』脚本、SF者には『エンダーのゲーム』脚色の人として知られているであろう作者。コッポラ主催のゾエトロープという文芸誌に寄稿していた作家なので、映画とのゆかりは元々深いと言えるかも知れません。そもそも僕が手に取ったのも、そのゾエトロープの邦訳版に(この短編集にもリヴァイズ版が収められている)『それぞれの獣の営み』が掲載されていて、とても印象深かったからでした。
最近の欧米のいわゆる現代小説は、そういう風に大学の創作コースで教え込んでるのか知らないけれど、結末部分を「しみじみいい感じに終わらせる」ことをとにかく回避することに腐心しているように感じます。読者の感覚を宙吊りにしてなんぼであるかのように。それは「そうすることでしか空虚な人生の真実は表現できない」という型に、逆にはまっているように僕には思われます。
ということで、アーウィン・ショーやアップダイクのようなニューヨーカー派的な短篇小説が現在でももっと普通にあっていいんじゃないかと常々思っていたのですが、この短編集はそういう志向にぴったり合っていました。
ベニオフは、(程度の差こそあれ)誰もが経験するような「人生の栄光の一瞬の輝き」を切り取ってみせるのがとても上手い。それでいて「そういう場面が果てしなく続く訳ではない」という諦念でもって一歩引いた視線であることも忘れない、絶妙なバランス感覚も持ち合わせています。限られたボリュームの中で登場人物の人生の奥行きを感じさせるということでは、表題作「ナインズ」は55Pでビル・フラナガンの『A&R』が文庫で上下巻を必要としたテーマを語りきってしまっている(いやあの小説も確かに面白かったのだけれど)。
そのほかでは「幸せの裸足の少女」「ノーの庭」がニューヨーカー的な雰囲気なのでやっぱり好きでした。特に「幸せの〜」は学生時代の前半部から現在を描く後半部での転調が鮮やかで印象深い。
☆☆☆☆☆