マジック・フォー・ビギナーズ(ケリー・リンク)

 短編集をCDアルバムとのアナロジーで語るのはそれほど的外れではないと思うんだけど、先行シングルが良くて手に取ったら、結局その3曲だけがよかった、みたいな印象。
 『スペシャリストの帽子』はスリップストリーム的な立ち位置の現代小説の中では、エンターテインメント性と本好きのツボをくすぐるマニアックな要素の按配が絶妙のバランスで、個人的には短編集の年間ベストだった。ところが今回は、オチがオチてないというか、まあ最初からO・ヘンリーみたいなオチ話を書く作家ではないのだけど、「え?そっち行くの?」という方向になし崩しに終わる展開がやけに多かった。締めるというより拡散していくイメージである。
 というわけで、収録作中で好きだったのは『妖虗のハンドバック』『ザ・ホルトラク』『しばしの沈黙』というSFマガジンで既読だった作品。どの作品もひとまず納得のいく結末だから、というのが共通の要素かもしれない。とはいえそれ以外の作品も、ありえない現象を扱っていながら、ディテールのリアルさで現実につなぎとめられている、という点の上手さではひたすら感心させられる。それにしても『マジック・フォー・ビギナーズ』というのはキャッチーなタイトルで、さすが出版社を経営してるだけはあるなと。
☆☆☆1/2