『祈りの海』『しあわせの理由』までは短編集として収録内容のバランスがよかったのか、それともイーガンの作風の最近の傾向が表れているのか・・・
「○○という技術が確立した時、世界はどう見えるのか?」という切り口は、そもそもSFというジャンルそのものの立脚点かもしれないんだけど、最近の作家の中で特にそれを感じさせるのがイーガンである。提示する内容は人間の本質に迫るような哲学的なものが多くて、にも関わらずエンタテインすることも忘れないサービスぶりが好きだった。
ところが今回編まれたこの本では、前者に重きが置かれる余り、いささかサービス精神に欠けるところがあるように思う。端的に言うと「頭でっかち」な印象。「闇の中へ」や「貸し金庫」的作品がなくて「キューティ」や「しあわせの理由」ばっかりだったら、正直胃がもたれる。
ゴリゴリの理系の人だったら、イーガン一流の論理の飛躍のマジックだけでも結構楽しめたのかも知れないけどね。
☆☆☆