ペンギンの憂鬱(アンドレイ・クルコフ)

 訳者あとがきにあるように、村上春樹の影響を強く感じる作風。要はハードボイルド(翻訳文体込み)的方法論でちょっと不条理な日常を描くというもの。
 ただ、似ているようで決定的に違うのは、村上作品が平和ボケして気付かれない日本の社会システムそのものに潜む「暴力的な力」を様々なメタファーやファンタジックなアイコンに託して描いてきた(特に近作ではその傾向が顕著だけど)のに対し、この作品では「生々しく現実的な暴力」がそこかしこに現れるところ。作者のスタンスなどといった眠い話題以前に「暮らしている社会が違う」という、先ずそのことにショックを受ける。
 加えて、村上作品が最終的には「誰かを信じる」ということに希望を見出すのに比べて、同じような擬似家族を描いても、どこか利己的で冷えびえとした描写で。酷薄な主人公という造型は、現実世界に置いてみればよりリアルということになるのだろうけれど、これもまた彼我の国の違いから来るものなんだろうか?と考えてみたりして・・・
 ちなみにタイトルは日本版オリジナルだそうで、最後まで読むと実に的を射た題だったのだと感心する。ここ最近では指折りの邦題です。
☆☆☆1/2