小説邦題の『奇術師』か原題どおり『プレステージ』でよかったんじゃないのかな。案の定ネットを巡回してみてもタイトルは不評が多い。それはさておき、世界幻想文学大賞作品『奇術師』の映画化。
原作は主人公2人の子孫が不思議な因縁から引き寄せられ、祖先にまつわる謎に迫るという「枠物語」があり、主人公それぞれのエピソードも「手記物語」の体裁をとっているという、いわゆる現代文学によくある重層的テクストによる構成。ただこの作品(小説)が凡庸な実験どまりの諸作品と違うのは、それがテーマとしての必然性を持っていたところ。小説のほうの感想文では「記述=奇術」なんて書いて、一人悦に入っていた(自己満)のだけど、要はそういう複雑さが「読書の快楽」に結びついていた訳ですね。しかもオチではそれを超えてなお、なんというか宙ぶらりんな気持ちにさせられる仕掛けまであって・・・実はこの「モヤモヤした感じ」こそがクリストファー・プリーストの持ち味でもあるのですが。
だから、今回映画化された作品を実際見てみると、ある意味で予想どおりだった。まず子孫に関わる「枠物語」はバッサリカット。尺をいたずらに伸ばさないという意味では正解。けれども独特の味わいも同時に切り捨ててしまった印象は否めません。ただ主人公2人のエピソードだけでも結構ツイストが利いているので、原作を読んだ方なら想像がつくように、映画はストレートな娯楽作になっているわけです。
残念な改変は、一方の主人公ボーデンがあまりに悪役になってしまったこと。小説ではそれぞれ主人公たちの生き様に筋が通っていて、それがボタンの掛け違いから止むにやまれぬ悲劇に向かって突き進んでいく過程が読ませどころだったのですが(同じ事件を二人の話者の視点で語るという趣向)、そういった味わいも減じてしまっていた感じ。ここは脚本の工夫で解決できた箇所だと思うのでちょっと首をひねってしまいました。
ともあれデビッド・ボウイの久々の雄姿(ニコラ・テスラ!)も拝めるし、原作にこだわらなければ充分楽しめる水準作だと思います。
☆☆☆