ディパーテッド(マーティン・スコセッシ)

 おなじ種から咲いた違う花のような、というか冬虫夏草?僕の中ではオリジナルを超えてました。以下ネタバレありなので未見の方は読まれないでください。
 『インファナル・アフェア』は「潜入捜査ものってよくあるけれど、2重にしたら面白さも2倍になるのでは?」という発想ありきであって、世界観はごく抽象化されていた(ひょっとしたら屋上でのトニー・レオンアンディ・ラウ対峙シーンの画ありきかも・・・)。だからそれぞれの潜入の過程や信頼を得るまでの描写などは省略されていて、その思い切りの良さがあの作品の成功を支えていたような気がする。
 今回のリメイクは、より人物像が掘り下げられており、組織の構成への言及も多い。というよりむしろ、「組織」というものの暴力的なまでの非情さがテーマだったのではないか。
 いみじくも監督がインタビューで「この物語はモラルのグラウンド・ゼロを描いている」と語っているように、仁義も倫理もない登場人物ばかり(ディカプリオ演じる「ビリー」だけが例外:監督注)。しかしそれぞれの個人は自分の言行を正当化する理屈を並べ立て、そればかりでなく自らの欺瞞を信じ込んでさえいるようにも見える。そういう個々の思惑がぶつかり合って事態は予想外の方向に展開していくけれど、その上で「組織」は個人を無情に飲み込み、押しつぶしていく。結果、警察の勝利でハッピーエンドのはずなのに、あとに残された人間は一人残らず不幸だ。
 リメイクでは2人の人物が象徴的だった。まず主人公2人の間をさまようヒロインのマドリン。「俺の子はどうなった?」というコリン(マフィア側潜入者:マット・デイモン)の問いかけに、自身の不実は棚に上げて黙殺で応えるふてぶてしさ。「モラルのグラウンド・ゼロ」を体現するキャラクター。
 そして「潜入」の監督役クイーナン。オリジナルのアンソニー・ウォン演じる上司は「仕事は気に食わないが、あんただからついて行く」という感じの頼れるキャラだったのに対して、FBIと州警という組織の思惑で右往左往する「会社人間」。ある意味リメイクのトーンを決定付けるキーマンだった印象である。
 実際、映画ほど極端じゃなくても現実社会の組織は非情なものです。
☆☆☆☆