イン・ハー・シューズ(カーティス・ハンソン)

 カーティス・ハンソンの手際が素晴らしい。姉妹の諍いと愛情、実の母の死と再婚をめぐる父親との確執、仕事、恋愛、祖母との和解と色々な要素を盛り込んでいるのに、盛り込みすぎでおなか一杯という印象はない。『8Mile』は世評に反して個人的には今ひとつだったけれど、さすが『LAコンフィデンシャル』をあれだけの尺にまとめた腕の持ち主である。
 ところで出演場面は短いながら印象的な人物がいる。キャメロン・ディアス演じる主人公(マギー)が施設で介護することになる「教授」と、「ミセス・レフコウィッツ」。彼らが背中を押してくれたことで、読書障害に人知れず悩むマギーは人生に対して前向きになっていく。
 こういったキャラクターを適切に配置できるかどうかが、作品としての厚みを決めるような気がするのだけど(ワーキング・タイトル製作の諸作品はその点が上手い)、この役割が振られる人物は社会的弱者であることが多い。黒人(マイノリティ)であったり、ゲイであったり、その両方だったり。
 この作品もしかりで、「教授」はベッドから動くこともままならず、目も不自由、レフコウィッツ夫人は足が不自由なのでマギーに買い物の代理をしてもらうことになる。ポリティカル・コレクトネスとしての配慮みたいなことを考え出すと逆に窮屈だけど、何となくそういう配置になっている印象を受ける。ともあれ、彼らのおかげで単なる「メジャー女優の豪華競演」作品になってしまうのを免れていたのは確かだった。 
 という風に書いておいてなんだけど、姉役のトニ・コレットはもちろん、キャメロン・ディアスも複雑なキャラをよく演じていた。彼女のベストアクトじゃないだろうか。
☆☆☆☆1/2