ワンナイト・イン・モンコック(イー・トンシン)

 ああ、これはノワール版『ラヴ・ソング』なんだなと思って開巻当初は期待したんだけど・・・

 クリスマス・イブを控え、活気にあふれる香港の街、旺角(モンコック)。そんな折、些細な小競り合いを口火に組織のボス同士の抗争が勃発。一方の組織のボス、ティムは大陸から殺手を呼び寄せる。
 内陸部から初めて香港に出てきた純朴な青年、フーは偶然から湖南省出身の出稼ぎ売春婦タンタンをチンピラから救う。タンタンはお礼がしたいと彼の供をするが、彼こそが大陸からの殺し屋だった・・・

 導入部からして悲劇的な匂いがするので、泣かせようという魂胆なのだと思う。それはいいのだけど、「結末さえ決まれば、そこに至るまでは雰囲気でなんとか押し切れるだろう」というのは甘いのではなかろうか。「浪花節」は肯定派なので手法のあざとさなんかは気にならないんだけど、そうであるにしても踏むべき手続きはある訳で。例えばヒットマンという隠密行動を旨とすべき仕事をするのに、「女と二人組」という目立つ上に制約の大きい行動をとり続けるのが飲み込めない。動機付けとして「銃を見られたから」というのは説得力が弱すぎるだろう。田舎から大都会に出てきて心細い同士が肩を寄せ合い、みたいな感情の機微の演出に力があれば、物語上の多少の無理には目をつぶれたかもしれないのになぁ。

 実はヒロインであるタンタンの、香港映画昔から定番の「オバチャン風」メンタリティに全く共感できなかった。厚かましいクセに変に情にもろい、そのくせ行動力はない。結末から顧みると、この映画の悲劇の殆どはこの人が呼び寄せてるんだよね。うーん、要はこのキャラを肯定できるか否か、ということに尽きるような気がしてきた。
☆☆1/2