東京物語(奥田英朗) 

 中学からちょっと背伸び気分で「ビッグコミック・スピリッツ」を読み始めた。そこに掲載されているのは「平成の歩き方」であったり「いまどきのこども」「同級生」で、ホイチョイの「東京いい店やれる店」の広告だった。作中のセリフで登場する「ブラック・レイン」公開が高校一年生の時。僕らはバブルの狂騒が皮膚感覚で分かる最後の世代ではないだろうか。
 景気が若干回復傾向にあるせいか、最近80’Sリバイバル・ブームで(漫画の「東京エイティーズ」批判があったり)、この小説もその流れの中の1冊ということになると思う。

 作者の半自伝的小説。名古屋から大学入学で上京した青年が社会に出て一人前になるまでを、スナップ写真のようにある一日を切り取って描く連作短編。ささいな事をきっかけに移ろう人の心理の描写が実に上手(「彼女のハイヒール」は特に際立っている)。ただ、小説としてはするする読めて楽しかったけど、物語や人物造形は文章にされたものが全てで、奥行きや厚みに欠ける印象だった。(そういうものを求める作品じゃないかも。)

 正確には物語の主人公は僕の世代よりひとまわり上。だからバブルも(物語上は)「青春時代との決別」とともにやってくる。でも学生時代や新入社員時代の風景というのはいつの頃でも同じなんだな。
☆☆☆