ヴィタール(塚本晋也)

 俺の好きだった塚本映画復活。

 前作の「六月の蛇」は世間的な評価とは逆にピンとこなくて、その前の「バレット・バレエ」もまるで?だったから、今回もちょっと期待できないかなと思っていたんだけど、良かった。「演劇的なセリフまわし」というのは、舞台系出身の映画監督にありがちなウィークポイントだと思うのだが、塚本作品の場合その違和感が「オモシロ」に転換される感じ(今作自体はあまりオモシロって雰囲気ではないけど)。そうそう、こういうのが好きだったんだと再認識した。

 それにしても監督の女優の好みって、ものすごく分かりやすく一貫してる。腺病質風でシャープというか。東京フィストの藤井かほり、バレット・バレエの真野きりな。この映画の宣伝で、ヒロインはKIKIと知ったときも成る程と深く納得したものだ。ダブルヒロインのもう一方、柄本奈美はこれまたバレエダンサーだし。でも「夢の女」というポジションはKIKIのほうが適当だった気も。

 いままでの作品は、「穏やかな日常に侵犯者が現れて、生活からなにから引っ掻き回されていく内に、社会生活の為のペルソナを脱ぎ捨てて自分の本質に気付いた主人公が神々しい力に目覚める」という物語をそれこそ執拗なまでに繰り返し語ってきたけれど、今作では「侵犯者」も登場せず、ストレートな恋愛物語だった。それが一番意外。今後は「物語」を語ることにシフトしていくのだろうか。
☆☆☆