震える血(V.A:ジェフ・ゲルブ編)

 エロティック・ホラーのアンソロジー。そもそもホラー小説の始祖たる「ドラキュラ」自体がセックスのメタファーが濃厚なので、性的描写というものはホラーの要素として切っても切れない関係ではある。

 こういうアンソロジーに対しては、テーマを(そしてジャンルそのものを)どれくらい逸脱してくれるか、についてつい期待してしまうんだけど、この本はそういうひねくれた読者にとってはちょっと物足りないものだった。つまり予想内に収まる話ばかり。(だからって「野獣館」みたいな鬼畜ぶりだったら、それはそれで引いたと思うけど。)

 収録作品では「赤い光」が唯一良かった。スーパーモデルになった元恋人と平凡なカメラマンの悲恋の物語。灯台設備のある奇妙な家という舞台設定の上手さと相まって余韻を残す。ディテールの繊細な描写がいい(世界幻想文学大賞受賞作)。

 最近は「予期せぬ結末」から逆算されただけのようなつくりの小説では、個人的にあんまり楽しめないのかもしれない。

☆☆1/2