肌ざわり(尾辻克彦)

 タモリ倶楽部のロングヒットしたショートコーナー「東京トワイライトゾーン」の元ネタである「超芸術トマソン」あるいは路上観察学会で有名な芸術家、赤瀬川原平の作家活動名義「尾辻克彦」としての処女小説集。

 娘の胡桃子との父子家庭の日常を淡々とした筆致で描く。しかしその日常のささやかな出来事からの連想は果てしなく脱線して、やがて妄想の域へ・・・

 赤瀬川名義のエッセイでのひょうひょうとしたユーモアが好きだった読者なら、その脱線ぶりを楽しむというのもひとつの読み方ではあると思う。けれど、そうした微笑ましい日常風景の描写からふと覗く現実のシビアさが、むしろこの短編集の読ませどころではなかろうか。父子家庭のいかんともしがたい侘しさ。それを払拭するために、日常のささやかな喜びだけを見つめて生きていこうとしているようにも見える。

 そして小学生の胡桃子の健気さが切ない。まだ幼くて母に甘えたい気持ちもあるはずなのに、つとめて気丈に振舞う。それを申し訳なく思う父。そして「父が申し訳なく思っている」ということも何となく理解している娘。その心の交流に泣かされた。

 しかし文章自体は「泣かせてやろう」と大上段に構えたような厭らしさは微塵もなくて、あくまで淡々としているのがいい。収録作は掲載誌も時期もバラバラなので、このような形でひとつにまとめられたことでボディブローのように効いてくるという効果があったように思う。

 ここまで褒めてきてあれなんだけど、実は保坂和志の作品を読んだときのような「食い足りなさ」を感じたのも率直な印象。テイスト的にああいった作品世界が好みの人にはお薦めできるかもしれない。

☆☆☆