くりいむレモン(山下敦弘)

 うわ、タイトル書くだけでも勇気がいるなぁ。感想文中、結末に触れます。

 えー好きな邦画はいろいろあるのですが、好きなジャンルとして「恋愛もの」があります。これは今流行の泣けるやつ、じゃなくて「ちょっと倒錯的なもの」。少しエグイシチュエーションなんだけど、そこがひょっとして恋愛の本質に触れているのでは?と思わせられるところが琴線ポイント。

 その中でも金字塔(に個人的に認定)は「月光の囁き」で、恋愛という関係における男女間の精神的ストラテジーを、SMという倒錯した世界にうまくスライドさせていた。この映画の研ぎ澄まされた演出を観たあとでは、原作の方のともするとフィジカルな側面にながれる描写が蛇足に思われたほど。この映画でつぐみが好きになった。

 もうひとつ好きな作品を挙げると、「富江」。こちらはホラーの体裁をとっているが、バラバラに殺しても蘇りつづける美少女という設定は「男から見た女という生物の得体の知れなさ」のメタファーだと思う。少なくとも映画版は原作のそういう側面を抽出した作品になっていた。

 それでこの2作に共通している要素を考えたら水橋研二だったのですね。なんだかジメジメしたキャラで、女の子の魔性に当てられて地獄へ一直線みたいな役をやらせたら天下一品の役者。もう30才だそうですが。僕のフェイバリットムービーどちらにも出ている、そんな彼が「お兄ちゃん」役と聞いたら、もう見るしかなかった。・・・っていう言い訳はどうでしょうか?この監督「リアリズムの宿」からファンでした、といえるならそんなエクスキューズも必要ないのだけれど、ビタイチ観てないからなあ。

 鑑賞後の感想:可もなく不可もなし。血のつながらない兄と妹の恋愛。なにかが起こってしまうまで、の不穏な空気の演出はよかったのだけど、一線を越えてから後の堰を切ったようなセックスは別にエロスも感じられず(正直早送りしてしまった)。上に挙げた作品のような方向性を期待したのが見当違いだった?

 親に関係を知られてしまい、家を飛び出した兄妹は逃避行の果てに消耗してしまう。車を降りた妹の帰りが遅い・・・もしや!と兄は発作的に走り出す。その後入れ違いに帰ってきた妹は、車の周囲に見当たらない兄の姿を手持ち無沙汰に待ち続ける・・・という所謂オープンエンドの結末は村石千春の存在感もあって、余韻のあるいい感じの閉じ方。

 ところがメイキングを見ると、制作側の意図としては兄が突然走り出すこと自体に意味はなくて、純粋な衝動として駆け出しただけだそうで。そうだったの?妹を想う余りに「まさか自殺!?」的に空回りしたのだとばかり思ってた。開かれた結末にするのは編集段階で決まったそうですが。(ところで、インタビュー時の村石さんは寝起きのようにはれぼったくて、映画の可憐さが感じられず残念でした。)

☆☆☆

 ※まめちしき:金字塔とはピラミッドのこと