朗読者(ベルンハルト・シュリンク)

 正直なところ、「マディソン郡の橋」的な安くてちょっとセンセーショナルな恋愛話に、卑怯なぐらいシビアなネタ(あえてネタといいきるけど)をもってきた、という印象以上のものは受けなかった。

 実際にドイツに暮らしていれば、ナチスという負の遺産は避けて通れない、今も現実的な問題として存在するのだろう。しかしあえてそれを「かつて愛した女性の過去」として物語に組み込むという著者の戦略が僕にはあざとく感じられた。21歳離れた男女の関係を理解するのに、誰もがスタンスを決めるのにたじろがざるを得ないそういった要素を避けて通れない、という構造が。

 これはネタバレだが、この小説の伏線として「文盲」があるけれど、それを恥ずかしく思うあまりに自らを窮地に追い込むなんてことがありえるのだろうか。自らの誇りに殉じて最後には自殺を選択するように、ヒロインの造形は一貫しているとはいえるけれど、再読に耐えるほどの仕掛けだとは思われなかった。

 遠藤周作の「沈黙」にもピンとこなかったので、単純に物語世界を味わう以外(以上)の選択を迫られるタイプの小説に向いていないのかもしれない。ただ映画化する際の監督としてアンソニー・ミンゲラが予定されていた、というところからも底が割れてる気がする。

☆☆