ショーン・オブ・ザ・デッド(エドガー・ライト)

良心的なゾンビ映画なんだけど、しかし間違いなくワーキング・タイトル作品でもあるという。

 基本的にワーキング・タイトル製作の映画はすべて人情(ラブ)コメディーで、それに英国気質をまぶしてあるというつくりであって、あとはスター女優との恋であったり、グランドホテル形式であったり、スポーツもの(テニス)であったり、という表層的な部分を差し替えているだけだ。
 でもどこまでもウェルメイドなため、毎回いい気持ちで映画館を後にするのは間違いない。個人的には世知辛い世間からの一時の逃避として映画館に足を運んでいるので、「毎回必ず」というのはかなり重要なことなのである。つくりが多少マンネリであっても、そんなのは些細なこと。ジャンルのお約束を外さない、ツボを心得た職人技は、そんな観客である僕にとっては賞賛すべきものだ。

 というわけで、今回の「ゾンビ」という要素もトリッキーではあるが、いつもどおりの表層にすぎない。すれ違い始めた男女に設定された今回のハードルは、「生ける屍」だったという訳だ。けれども「ゾンビ」に対する敬意が感じられることも言及しておかなければ不公平である。お約束である親しい人間をわが手で葬らなければならないという悲劇や、ゾンビになるくらいなら愛する人の手で殺されたい、みたいな展開もちゃんと押さえてある。
 なによりロメロ版のエンドロールでかかる「あの曲」が流れるのが嬉しい。オリジナルでは悲惨なシーンに場違いで間抜けな雰囲気で、逆に陰惨なイメージを強調するという異化効果を出していたが(ホラーのジャンルではそれがかえって定番になった印象があるが)、この作品ではイギリスコメディ伝統の皮肉っぽいテイストを演出した風だった。そういえばこの映画自体が、TVコメディシリーズのスペシャルエピソードといった感じでもあった。

 ともあれ日常に擦り切れていく描写なども丁寧で、もちろんゾンビバブルの勢いだけで作った映画ではない。そういうところも全くもって「安心のワーキングタイトル印」であったことでした。

☆☆☆1/2