衝撃的。「吠える犬は噛まない」は新人ながら驚くべき完成度で、それは年齢の割りに老成したスタイルという意味での「完成度」ではなく、チャレンジングなつくりでありながら全体としての水準も高い、というデビューとしては最も望ましい形のものだった。
今回の作品は「田舎の頑迷な刑事」「都会のスマートな刑事」というステロタイプな人物造形による対比や、連続猟奇殺人というキャッチーな(ベタな)題材を配するなど、前作のアート寄りなつくりからすると間口を広げたものになっている。これは「吠える〜」が当初、その評判にも関わらず興行収入的にはふるわなかったことを踏まえてのものだろう。
それは守りに入ったことを意味するのではなくて、前作同様、ブラックな(しかし独特のウェットさもある)笑いが健在で、いざ鑑賞してみるとジャンルムービーの単純さを逸脱する、この監督一流のひとすじなわではいかない感覚が生きていることが分かる。その一方で、シニカルなテイストとはいえ、ただの諦観や虚無主義に陥らないかすかな希望がほの見えるところに監督の人柄も感じられた。卓越したグラフィカルなセンスもあいかわらず。
などといった分かった風なものいいが一番似つかわしくない作品に思われてきたので、これくらいにしておきます。決して後味は良くないけれど、韓国映画ブームが一時の勢いではないというポテンシャルを示す作品として必見。というより今の状況がブームに過ぎなかったとしても、ポン・ジュノという監督が日本に紹介されただけでも意味があったと言い切りたい。