お母さんとお父さんが出会ったとき、お母さんは三十六歳だった。お父さんには物心つくまえからの友人がいて、ふたりは十七歳だった・・・
というモノローグで始まる、ある愛の物語。この語り手は主人公たちの娘である。その彼女が時々「地の文」に顔を出したりしながら、彼女が生まれるに至った経緯が語られるという趣向。
お父さんとその親友、2人の主人公がいることがポイントで、結局どちらが彼女の「お父さん」なのか?という謎が物語上のフックとなっている。
(ありきたりな言い方であれだけども)感情の機微の描写が巧みで、人物造形が実にリアル。ただ皆が少しずつ不幸で、抜け出せない関係の連鎖に囚われているという世界観が息苦しくて、悪い意味で「日本文学」と聞いたときに想像されるウェットな印象そのまま。ただ一方で、高校生たちの友情・恋愛の感情が伝わらない、伝えられないもどかしさの描写が丁寧で心に迫る。という部分とも表裏一体なので、これは完全に好みの問題だとは思う。
ところで、感情の描き出し方が細やかな分、例えば市長のパーティの場面での市長と大島(主人公のひとり)のやりとりみたいなしらじらしい台詞を目にすると腰砕けになってしまう。手綱がゆるんでしまったのか、時々そういった「頭で書いている」感じの場面が出てくるのが残念だった。
読者は大島と磯谷、どちらに感情移入して読む人が多いのだろうか?