大学時代を懐かしく思い出した。その時代を通過してきた人みんなが、何かしら心当たりのある風景に出会える作品ではないだろうか。ただ処女作であるからして、技術的な側面からすると「大学のサークルの面白い先輩(後輩)が部の雑記帳(大学ノート)にいつの間にか書いてた作品」レベル以上のものではないと思う。
小説のスタイルは、実は夏目漱石の初期作品風、具体的にタイトルを挙げると「吾輩は猫である」「三四郎」そして「彼岸過迄(の第一部)」などにおいて高等遊民や大学生が繰りひろげる無駄話の要素を、短いエピソードとして配置していく、というもの。もちろん現代の大学生の物語として違和感がないように極端に古めかしい言葉は使っていないが、会話や文章のそこここに強い影響が感じられる。
実際、本筋にからまないところで(というより脱線こそがこの小説の魅力なんだろうけど)主人公の青年が「明暗」を読んでいるシーンなどもあったりして、これは作者からの「わかっててやってます」というサインなのだと理解した。
結末の余韻など、全体としては物語に対する誠実な姿勢が感じられて好ましい印象を受けた。次回は作者自身のスタイルで語られる物語を読んでみたい。