天使だけが聞いている12の物語(編:ニック・ホーンビイ)

J文学ならぬE文学コンピレーション風の短篇集。

トレスポ、ブリジット・ジョーンズの日記などの現代(ポップ系)英文学作家の短篇を、ハイ・フィデリティの作者が編集した短編集。共通のテーマみたいなものはあまりなくて、概ねそれぞれの作家の名前から想像される作風の作品が収録されている。ところで、1冊の本として収録作の順番を考えたら、最後の2作品の展開の寒々しさはいかがなものか。もっと気持ちよく読み終われるような流れを考えてほしかった。

それはさておき、気に入った作品はホーンビイ自身による「乳首のイエス様」とゼイディー・スミスの「それはおれだけさ」。
前者は、ポルノ雑誌の乳首の部分を切り取ったパーツからモザイク状にイエス像を描いた現代美術の作品のガードマンとして雇われた労働者階級の男の物語。主人公の(彼なりの)人生に対する生真面目さに泣ける。余談だけど同じ方法で作られたマリア像の現代美術が確か実際にあったね。

スミスの「それはおれだけさ」は、現在注目株の若手女性映画監督を姉にもった少年の物語。常に姉と比較されてしまう窮屈な家庭環境や主人公の内面のナイーブさが、イーサン・ケイニンの同様のシチュエーションの作品に通じるものを感じさせる。一方、例えば家の間取りとか姉のお気に入りの映画みたいな生活の細部の描写が的確で、「頭だけで書いた」のではない印象。同じ作者の長編「ホワイト・ティース」も読んでみたい。