2010-01-01から1年間の記事一覧

マジック(リチャード・アッテンボロー)

さえないマジシャン、コーキーは、腹話術人形のファッツを相方にすることで一夜にして人気者になった。やり手のエージェントであるベンに見出されTV出演のチャンスを得るが、彼は精神の不安定さを見抜かれるのを恐れて故郷の田舎町に逃げ込んでしまう。故…

マイマイ新子と千年の魔法(片渕須直)

現実がその生々しいはらわたを見せる転調のところが、やっぱり世間的な好評価のポイントなのではなかろうか、と思った訳ですが、正直個人的にはサントラのスキャットとか、「討ち入り」の後の存外浪花節な展開とか、監督のセンスにううむ・・・いかがなもの…

平ら山を越えて(テリー・ビッスン)

結構既読作品が多かったのがちょっと残念でした。ビッスンに関しては2冊目なので(それをいったらスタージョンは3冊だけど)、ウィル・セルフとかマーゴ・ラナガンみたいな知らない作家を紹介してほしかった。 それと奇想に仮託した現実社会への異議申し立…

月に囚われた男(ダンカン・ジョーンズ)

月面の重力描写とか、随所に見られる繊細な配慮が近年珍しい「映画へのSFマインドの定着」に功を奏していると思いました。 それともちろん、ほとんどを独り芝居で持たせるサム・ロックウェルの膂力。(個人的に『真夜中のカーボーイ』のラッツォみたいな、…

ともしび・谷間(アントン・チェーホフ)

「激情型の登場人物たちが織り成す波乱万丈の大ドラマ」のような先入観がロシアのこの頃の小説にはあったのだけど(さらに『カラマーゾフの兄弟』を読んでから、より一層その思いが強く刷り込まれたのだけど)、この短編集に関していうと全然違いました。だ…

特攻野郎Aチーム THE MOVIE(ジョー・カーナハン)

話はガチャガチャだけど「無茶な画」を画にしてみせるセンスはあるなあ、という印象にすっかりなってしまった・・・『NARC』の時は全然そんな感じはしなかったのに、『M:i:III』の抜擢には(降板しちゃったけど)なかなか先見の明があったのだなと。 と…

ヒックとドラゴン(ディーン・デュボア、クリス・サンダース)

少年いかにしてトルーク・マクトとなりしか、の物語。どなたかも書かれていましたが、顧みると「ハート・ウォーミングもの」の側面を強調しすぎたトレーラーのせいで、血沸き肉踊る「夏休み冒険映画」としての本分がスポイルされていたきらいがありましたね…

エレクション2(ジョニー・トー)

凄かった。僕にとっては『ゴッドファーザー』に比肩するシリーズになりました。 血で血を洗う会長選を巡る抗争から2年、ロクは無事任期を終え、次期会長選が実施されることになる。ジミーは推されるものの、堅気としての大きな契約を前にして辞退する。一方…

モテキ(久保ミツロウ)

お盆に『ばかもの』と一緒に読んだので、なんだか渾然一体になってしまった。こちらも、男女の恋愛に留まらない、コミュニケーションというものの困難さをひとつのテーマにした作品でしたね。 ところで、ヒロインたちの何人かは、エピソードとしては投げっぱ…

ばかもの(絲山秋子)

アルコール依存症、宗教、傷つけてしまった妻への呵責の念、外圧ではなく、自らの内圧に耐えかねて崩壊していく個人や関係。人と人とが関わっていくことには大変な困難が伴うけれど、それでもなお、希望というものは人間同士の関わりの中にこそ見出されるべ…

パンドラの匣(冨永昌敬)

先日読んだ原作は、林間学校の高揚が果てしなく引き伸ばされたような一種の「ユートピアもの」の枠で展開する青春喜劇で、あまりメメント・モリというか、エロスとタナトスみたいな方面の要素は感じられないのがむしろ予想外という、風通しのよい小説でした…

都市伝説

定期的に掲示板サイトなどで話題に上る「歯科衛生士さんが胸を押し付けてくる件」。僕は年2回定期的に歯のクリーニングに行くのだけど、そんなことある訳ないでしょ、でもちょっと今回は気をつけてみよう、と先日上半期の治療に行きました。 なるほど、(当…

フォロー・ミー(キャロル・リード)

[rakuten:neowing-r:10270879:image] 会計士のチャールズは、自らの属する虚飾に塗れた「エスタブリッシュメントの世界」に嫌気が差し、独身貴族を嘯く日々だった。そんな彼はある日、小さなレストランで可憐なアメリカの女の子ベリンダに巡りあう。今までの…

清作の妻(増村保造)

妾女と蔑まれながらも、母の故郷に帰らざるを得なかったお兼。彼女は村の模範青年との誉れ高い清作といつしか結ばれるが、彼は日露戦争により再招集される。母を失い、「清作」が世界そのものとなっていた彼女は、ある決断をする・・・ 初めての若尾文子ディ…

WORLD WAR Z(マックス・ブルックス)

人類が破滅の淵にまで追い詰められた「世界Z大戦」から10年。国連の戦後報告書作成担当者である主人公:インタビュアーは、ようやく回復の緒に就いた世界各国を周り、様々な場所、立場で「ゾンビ戦争」に関わった人々から証言を得る。無機質なレポートに…

ブラッド・ブラザース / 刺馬(チェン・チェ)

途中まで見たところで、あれこの話前に・・・ってなったのだけど、ちょっと前に見た『ウォーロード』(傑作!)のリメイク元だったんですね。(結末に触れます。) その日暮らしの気ままな山賊生活を続けるチャンとホアンの兄弟。彼らがある日襲撃した男は凄…

プレスリー対ミイラ男(ドン・コスカレリ)

多分ソフト化されている監督作品は全部観てるはず。ホラーファンタジーなんだけど、不思議なペーソスが通底している気がして。この作品は特にその感触が濃厚でした。 人生の終着駅感あふれる老人ホームで、ただ繰り返される日常に流されるままになっている、…

暗号解読(サイモン・シン)

著者の本は鉄板と聞いて。なるほど読ませます。テーマごとの列伝形式になっているのでメリハリがあってよかったですね。世界史専攻の身としては、やはりシャンポリオンのロゼッタ・ストーン解読のくだりが面白かった。 第二次世界大戦を背景にした作品で好ん…

パーマーの危機脱出(ガイ・ハミルトン)

オースティン・パワーズの眼鏡の元ネタである、という情報との関連でしか正直知らなかったので、007フォロワー的なお気楽な映画なんだろうと思い込んでいたのだけど、なんの、ニヒリスティックなトーンが支配する正統派エスピオナージュでした。※ 冷戦下…

終点のあの子(柚木 麻子)

最近、①学校を舞台にした、②コミュニケーションの困難さをテーマとしている、③女性作家の作品が目立つ気がします。自分が見たり読んだりした範囲だけでも『太陽の坐る場所』『告白』、そしてこの小説。 クラス内のグループ同士の暗闘やヒエラルキーといった…

(500)日のサマー(マーク・ウェブ)

誰か小説家だったか評論家の方が、青春の1冊として『赤と黒』を取り上げてレビューを書いていた中で、「思い出すだけで恥ずかしくて、悶えのたうつような、自分の実体験をありありと思い起こさせてくれるような作品、それ即ち青春小説ではないだろうか」と…

インセプション(クリストファー・ノーラン)

本来『メメント』的な規模でさらっと撮るのが望ましい話であるところを、監督や出演者の格とか、『ダークナイト』の後だからといった事情で、物語上要請される以上の規模の作品になってしまった、という印象でした。もちろんビッグバジェットのおかげで撮れ…

トイ・ストーリー3(リー・アンクリッチ)

聞きしに勝る完成度。本当に素晴らしかったです。以下感想メモ。 ・アンディは好青年に成長しましたね。 ・台車が転換する時、硬質プラスチックの車輪があそぶ感じや、建物の外縁のアルミフレームがキュッと歪むところなど、確かにそんな感じ!しかしなぜそ…

プレデターズ(ニムロッド・アーントル)

監督作『モーテル』がタイトなサスペンスの佳作だったので期待してたのですが・・・以下感想メモ。(ネタバレあり) ・訳も分からずバトルゾーンに放り込まれて途方にくれる、という導入はいいと思うのだけど、物語を推進する「人物のモチベーション」の設定…

シャレード(スタンリー・ドーネン)

ジョナサン・デミのリメイクはヌーヴェル・ヴァーグのパロディなんかでやりたい放題のシュールな映画になってたけど、昔TVのロードショーで見たオリジナルはヒッチコック風のロマンチック・スリラーで面白かったよなあ・・・と久しぶりに観てみたら、なん…

ニノチカ(エルンスト・ルビッチ)

ツンデレ及びそれに萌える気持ち、というのは最近になって発見された概念「ではない」、というのがよく分かる映画でした。しかも驚くべきことに、深夜アニメ的な世界観(直截的にはエロゲー?)において定番※1である、タイムスリップしてきた未来人とか、異…

拳闘士の休息(トム・ジョーンズ)

巻末の訳者あとがきでも触れられていますが、「崖っぷちに追い詰められたときの、傷ついた人間の一瞬の光彩」を鮮やかに切り取った短編集。ブコウスキーの作品のような「俗性を極めた先に垣間見える聖性」のようにも思われたし、タフな語り口はヘミングウェ…

ヤフーがちょっとどうかしてる件について

以前「たけくまメモ」で竹熊さんが、プロバイダの解約をしようとするだけで、延々要領を得ないやりとりをさせられて大変な目にあった、という話を書いていたけれど、それを読んだときは(正直他人事だったこともあり)、そういうこともあるんだな、と思った…

乱反射ガール(土岐麻子)

ラジオで流れている曲でサビになった瞬間「あ、これ、あのCMの曲だったのか!」ってなることがあると思うのだけど、とりわけ「そうなる」歌というのは、サビへの展開がやや唐突なものではないでしょうか?このアルバムでいうと「熱砂の女」を聞いていて「…

モーム短篇選〈下〉(W・S・モーム)

いみじくも解説において、作家の作風をチェーホフ派とモーパッサン派に大別しているのだけど、前者は物語に大きな起伏がない代わりにしみじみした余韻を残すもの、後者はプロットのツイストに重きを置くもの、という要旨。確かにモームは後者なんですよね。…