燃ゆる女の肖像(セリーヌ・シアマ)

 芸術家がその対象を「掴んだ」と思うまでの話ということで夏目漱石の『草枕』みたいだなと思いました。(対象がいわゆる「世間から浮いている人」で、恋愛や社会生活に困難を感じているところも似ている。)

 しかしながら世で言われているほど感銘を受けなかったのが正直なところ。時々ハッとするような画が出てきたり、祭りの輪唱など印象的なシーンはあったのだけれど。

☆☆☆

ラストナイト・イン・ソーホー(エドガー・ライト)

 正直、物語の結構が弱いと思いました。きらびやかな画作り、ジャーロ的なショックシーンが目を引くだけに余計そう感じたのかもしれません。見せたい画がまずあって、それらが出てくる必然性について最低限つじつまが合えばいいや、と考えているような。冷静に振り返ると、主人公に思いを寄せる青年、大家さんなど、巻き込まれている人はいい迷惑だよなあ…

☆☆☆1/2

※実は全体としては何故か『さまよう魂たち』の雰囲気を思い出したのだけど…

バイオハザード: ザ・ファイナル(ポール・W・S・アンダーソン)

 5作目まで律儀に映画館へ観に行って、もう、付き合うの、いいかな、と思ってそのままにしていたのだけど、そうか6作目で完結だったんだ、ということで見てみました。

 結局これまでの内容と大差なかったですね。これならどの時点で完結させてもよかったのでは?監督のモチベーションはどこにあったのかしら(嫁?)。かつ一貫して逃れ難くB級な匂いがするシリーズだった。実際の予算規模は分かりませんが、先日見た『モンスターハンター』の方がまだリッチな印象だったかな。

☆☆☆

神の一手(チョ・ボムグ)

 エクストリーム囲碁バイオレンスアクション。まあマンガですね。暴力+囲碁というぶっ飛んだ設定がすごい。

 というような映画に突っ込むのも野暮なんでしょうが、囲碁の勝負で勝利したら悪役が逆ギレするので返り討ちにする、というパターンになっているのだけど、それだったら最初から暴力で叩きのめしておけばよかったのに、と思いました。(まっとうな囲碁ではお前たちは我々に勝てないのだ、ということを明確にしておきたかったのかな。)

 ところでもう一つ、主人公サイドに関して、打ち手を達人が遠隔指示していることをイカサマとして悪役サイドが指摘してボコボコにするのだけど、全くおなじイカサマを悪役サイドもしていることが不問になっているのがよく理解できなかった。そのことを指摘したらお互い様ってことになるんじゃないの?

 とはいえとても面白かったです。映画オリジナル企画だったとしたらよく世に送り出したなと拍手したい。

☆☆☆1/2

ターミナル・リスト

 超面白かったです。フークワプロデュースだけど、『イコライザー2』を原液で希釈せずに8倍したような話だった。やっぱり継続に色気をださずにシリーズで完結するつくりがいいですよね。信頼できない語り手を模した導入部分も良かった。

 テーマの部分ですが、もちろんメインは復讐譚なんだけど、結局アメリカにおける兵士とは?ということなんですよね。大義があるんだかないんだかという作戦でも、上層部から命じられたら「お国のため」と飲み込んで命を無条件で投げ出さなければならない。自身の道義とか倫理に基づいて判断することは求められていない。(劇中強調されるように)それでもなお戦うことを曲がりなりにも続けられる理由は、「隣にいる仲間のため」だけ。だからこそ軍の上官(と彼)の裏切りは絶対に許せなかったのだと思います。

 こういう軍もの(警察もの)で「お前だってこんな命がけの仕事の見返りが安い給料だなんて許せないだろ?」というセリフを吐く登場人物は決まって裏切り者でみじめに死んでいくのがお約束ですが、そういう観点からすると『ザ・ロック』のハメル准将がもし主人公だったら?という物語だったような気もします。

☆☆☆☆

いずれは死ぬ身(柴田元幸 編訳)

 ニューヨーカーに掲載されるような小説で、かつ玄人好みの作品群かなと思いました。タイトルどおり諦念が通奏低音のような選集ですね。もともと好きなトム・ジョーンズ(舞城訳よりこちらが好み)やオースターがよかった。村上春樹の文体に引っ張られているところもあるかな?ところでダイベックの「ペーパーランタン」は全体としては面白かったけど、面白半分に放火するような主人公はやっぱり倫理的に受け入れがたかったな…

☆☆☆