悪人伝(イ・ウォンテ)

 ふとした成り行きからヤクザと刑事が手を組んで連続殺人犯を追う、という発想は面白いのだけど、必ずしも上手くいってないというか手を組む必然性に乏しいんですよね。それと犯人の造形が今時ベタすぎるし、結局ターゲットは行き当たりばったりなの?とか誘拐ってなんだったの?とか詰めが甘い部分も散見されます。

 勢いがあるのでまあいいか、とはなるのだけど。

☆☆☆

※原題は『続・夕日のガンマン』オマージュなのかな。

THE BATMAN-ザ・バットマン-(マット・リーヴス)

 なるほどエルロイ風ノワールでしたね。『ジョーカー』的な世界観の延長線上(現実世界と地続きで在り得る雰囲気)ではバットマンは無理だろうと思ってたけどこういうやり方があったのか。面白かったです。

 ところで歴代で一番「お屋敷」の広がりが感じられなくてそこだけが残念でした。(なんであんな狭苦しいところをゴテゴテしてる感じにしたのだろう…)

☆☆☆1/2(4つかなとも思ったのですが、最後のシーンが些か長く感じたので。スパッと決めてくれたなら…)

※1 これまで以上に完全にヴィジランテものなんだけど、「殺さず」に徹するのが隔靴搔痒というか、そのポリシーのために犠牲者がでるなら無視していいんじゃないかって思ってしまうなあ。

※2 僕も最後のくだりは蛇足だなと思ったのだけど、議事堂襲撃事件などがあったから、映画人として物申さない訳にはいかない、と思ったのかなと想像しました。

台北プライベートアイ(紀 蔚然)

 ミステリ版『吾輩は猫である』という感じでした。高等遊民の低徊趣味の風情。これは翻訳の方の仕事が素晴らしかったと思います。

 『吾輩~』が(どこにでも行けるカメラとして)猫の目に仮託して世相を風刺していたように、調査の名目でどこでも入っていくところから「探偵」という主人公を逆算していたような。愛すべき偏屈者を慕っていつしか若人が集うところも苦沙弥先生っぽい。作者は日本文化にも詳しいようだから実際参照してたんじゃないかな?

 ロマンティックだけではない苦さがあって、でも人は孤島ではない、という結びが良かったですね。

☆☆☆☆

群盗(ユン・ジョンビン)

 久しぶりに見たけど最高でした。カン・ドンウォンの悪役ぶりが殺陣も含めて光ってる。何だかストーリーが『シグルイ』的なやりきれなさと血生臭さがあって好きなんですよね。

 ところでオールスターキャスト的面白さもある作品ですが、ハ・ジョンウとチョ・ジヌンのコンビって『お嬢さん』で気になったのだけど、よく考えたらこの映画でも『悪いやつら』でも共演してたんですね。気づいてなかった…(マ・ドンソクのことは気づいてた。)

☆☆☆☆

バッド・ジーニアス 危険な天才たち(ナタウット・プーンピリヤ)

 胸がすくようなケイパームービーかと思いきや、苦さのある青春映画でした。主人公の凛とした佇まいもよかったけど※、何といってもお父さんが素晴らしかったと思います。(なんかトニー・レオンに見えてくるんですよね)。

☆☆☆1/2

※最初わざと制服を野暮ったく着せているところから、自身を深めるにつれ着こなしも洗練されてくる衣装演出もよかったですね。

ウルフズ・コール(アントナン・ボードリー)

 冒頭はあまり知ることのないフランスから見た世界情勢が示されていて興味深かったのだけど、いかんせん主人公の造形が共感を拒むような人物でどうして?となってしまい作品評価もちょっと…という印象に。軍法会議ものの逸脱行為もさることながら(ヒーローだからそこは目をつぶって、ということなら割とある設定なのでギリギリ了解できるのだけど)、重要な作戦行動に参加する直前なのに彼女ができた嬉しさで大麻吸うなんてありえないだろう…。

 というように、主人公が第三者的に状況に介入するためとはいえ、『未知への飛行』的サスペンスを成立させるためのお膳立てがずさんすぎる。他の展開で全然構成可能なストーリーだからやはり作り手の脚本のブラッシュアップ不足なんだと思います。

☆☆1/2