アトミック・ブロンド(デヴィッド・リーチ)

 エスピオナージュというジャンルは、結局、ハードボイルドと同様に形式そのものに淫する在り様を指すのだなと納得しました。

 端的に言うと「なんかいろいろな思惑がある勢力が複数入り乱れて、主人公は自分自身もよくわからなくなりました」という枠組みなので(ただし本作はエンターテインメントらしいオチをわざわざ付けている)、観客(読者)は翻弄されることそのものを目的として観に行くわけですよね。だから物語の本筋は何かを追及してもそもそも得るところがない。

 この映画の発明は、そこにひたすら躍動する身体を加えたところ。置いてきぼりにされることが目的であるジャンルだから、本来は好事家向けの作品になりがちなところ、シャーリーズ・セロンという強力な主体を得て、ただ戦い続けるのを見続けるうちに、なんだか話が前進しているように錯覚する次第。素晴らしかったと思います。※

 ところで、『ジョン・ウィック』は1作目のすっとぼけた世界観が好みだったのに、2作目からはしかつめらしい真面目ぶった作風になったのがガッカリだったのですが、一方で『デッドプール2』は大人向け悪趣味コメディのバランスが絶妙だったんですよね。ということは、リーチ監督の作風が僕は好きなんだな。

☆☆☆1/2

※ボーンシリーズがあるじゃないか、という声もあろうかと思いますが、あれはちゃんと起承転結のある物語主体の作品(筋を追うことに意味がある)なので似て非なるものと考えます。『ジェイソン・ボーン』は蛇足だったけど。