古森の秘密(ディーノ・ブッツァーティ)

 最近、何を読んでもあまり心を動かされることがなくて、年を取って感受性が磨滅してきたのか…残念なことだな、と思いなしてきたのだけど、久しぶりに読書で感動しました。

 初期作品だけあって、ディテールの異様なまでのクリアさ、突き放すような冷徹な視線、冷え冷えとした寓意、といった作者の特徴は控えめで、割とクラシカルな作り。しかし中編(というか児童文学だから?)のボリュームなのに物語中起こる事象の変転がダイナミック、それでいてリリカルだった。経験したはずのないことなのに、自らのかつての体験のかけらを反芻するような感触。

 主人公たる大佐、大風のマッテーオといった怪物的な登場人物は、しかし内側に人間的な俗欲を抱えていてそれが脆さ、弱さとなっている。しかも専制的な振る舞いの裏側では正しくありたいと渇望もしていて、その二面性が魅力的。(この二面性についてはあらゆる登場人物に及んでいて、その一筋縄ではいかないところが読ませどころになっている。)

 詩や自然描写の静的な通奏低音がある一方で、風同士の谷の支配権をめぐる戦いの描写も面白く、活劇的な躍動感もある。テーマと物語構造が一致する作品構成も見事。

古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

☆☆☆☆1/2