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カラフル(原恵一)

映画

 なんだ!これこそ俺が観たかった『エヴァQ』じゃないか!と思いました。5点。:現世で犯した「大きな過ち」を償うため、あの世から修行として下界へ送り返された男。その「修行」の内容とは、自殺した中3の少年の身体に宿り、その過程で自身の罪を思い出す、というもの。しかしその少年の家庭は一見平穏なものの、不倫を後悔する母、存在感の薄い父親、出来の悪い弟を疎ましく思う高3の兄、という極めて危うい関係で成り立っていた。しかも少年は学校では成績は最悪、クラスでは孤独な存在だった・・・果たして男はこのマイナスの状況から修行をやり遂げることができるのか?
 『素晴らしき哉、人生!』あるいは『クリスマス・キャロル』のように、超越的な存在に導かれてある人生を疑似体験する、という物語はある種の定番ですが、映画の観客と主人公が同じ目線で、すなわち提示される物語に初めて向かい合う、という点で作品への没入に極めて有効な形式でもある訳です。主人公のある発見によって、それまで見えなかった視界が開かれ、世界が拡張していく、という快感。先に書いたあらすじのように、基本的な構造は意外なほど似通っているのに、『エヴァQ』に根本的に欠けていたのは「手探りで世界を確かめる」発見のカタルシスだったのではないでしょうか?※1 以下メモとして。
・あえての不細工キャラを演じた宮崎あおいの熱演も悪くなかったけれど、ギリギリの精神状態で辛うじて持ち応えている複雑な母親像をナチュラルに演じきった麻生久美子が素晴らしかった。そして、自身の焦燥とないまぜになって弟との距離感を図りかねている受験生の兄を演じた中尾明慶の意外な好演!
・終始地味な展開なので、実写でなくアニメでやる意味がないのでは?という批判があったようですが、アニメは作り手が意図しなければどんな事物も存在しえないという点にあまりに無頓着な感想ではなかろうか。たとえば、主人公の唯一の友人となる早乙女くんの登場時からのつんつるてんの学生ズボン。「ああ、急に背が伸びたけど、もう中3だから親から買いなおすのは我慢しろ、といわれているんだろうな(そういう経済事情でもあるんだろうな)」と察させるような、そういった行間を読ませる豊かなディテールがいたるところに織り込まれています。※2
・自信がない監督だったらセリフで補完させたくなる場面、展開上絶対に「決めないといけないシーン」で「あとひとこと」を言わせない、ストイックな演出がよい。なので、クライマックスである一家の夕食の場面において、(家族からの愛を確信できたことで)自分の本音を遠慮なく吐き出して構わないんだという勇気を掴まえた主人公の心の軌跡に素直に共感できるし、結末の天使プラプラとの別れのシーンもストンと腑に落ちました。
☆☆☆☆☆
※1 あえてひねくれてみたというのは大いにあり得ることだけど。
※2 意味を背景に持たない部分でもディテールの描き込みが素晴らしく、担任の貧乏ゆすりやスキヤキに曇る兄のメガネなど、人物が立ち上がる瞬発力のある描写に感心させられます。前作『河童のクゥ』もやっぱりすごかったけどね。