グランド・マスター(ウォン・カーウァイ)

 『マイ・ブルーベリー・ナイツ』にがっかりさせられたので、今回はどんなものかと期待と不安相半ばしつつ足を運んだわけですが、結論を先に述べると監督作としてはジャスト「普通」。『欲望の翼』の懐かしくも新しい感じとか、『花様年華』の完成されたマニエリスム、みたいな鑑賞時のインパクトには及ばなかった印象。以下メモです。
 ・ユエン・ウーピンクンフーコレオグラファーというクレジットは『マトリックス』のいろいろある発明のなかでもとりわけ素敵なもののひとつですが、今作でも正しくコレオグラフと呼ぶに相応しい「舞踏」のような殺陣が素晴らしかった!と褒める気まんまんだったのだけど、正直『マトレボ』で雨の格闘はおなか一杯になっていたので、そんなでもなかったかな…。スタイリストたるウォン・カーウァイをもってしてもなかなか斬新なアクションは難しいようで。さすがに画的には美しかったですけどね。
 ・という訳で、エンタメとしてのアクションはベタに徹したチャン・チェン演じる一線天のパートに担わせる、という方針だったのか、(映画としては正直なくても大丈夫な箇所だったけど)単純に格好良かったし燃えた!暗殺術としての八極拳というのはバーチャ世代にはストライクな設定ではなかろうか。
 ・ドニーさんのイップ・マンとは見た目どころか人生行路すら違うんだけど※1、どちらが事実に近いのかしら…(奥さんは香港に連れてこなかったの?)
 ・チャン・ツィイー演じるヒロインは「拳を継ぐ者」の悲哀があって素晴らしかったのですが、こちらが勝手に彼女自身の「いろいろあった感じ」を二重写しにしてしまって(というかキャスティング上それも織り込み済みで?)…というのはアイアンマンのRDJに通じるところがありますね。
 ・個人的には最後の20分が全てだったので(滂沱の涙。原題の「一代宗師」というのはつまりそういう意味なのかな、と)、せっかくウォン・カーウァイが監督するのだったらそこを拡張して「アクションなしの功夫映画」※2ぐらい思い切った作品でもよかったのでは?という気がしました。
☆☆☆1/2
※1 酔拳のジャッキーとワンチャイのジェット・リーくらい違う。
※2 まあ『東邪西毒』はほぼアクションなしの武侠映画だったけどね。