キャンバス(サンティアーゴ ・パハーレス)

 作者の既訳の『螺旋』は、本の作者を巡る聖杯探究譚のような趣の物語でありながら、ジャンキー青年の社会復帰へのサバイバルが挿入されたり、夫婦のありようの難しさが語られたりと、どこへ連れて行かれるのか見当がつかないエピソードのカラフルさが魅力の作品でした。(若書きの詰めの甘さや、ややご都合主義な結末の展開なんかはあったりするのだけれど。)
 さて期待とともに手に取ったこの作品、うーむ、普通かな。「誰も予想しえなかった美術史上のエポックメイキングを成し遂げた画家、の息子があまりに偉大な父親との関係を築くことの困難さについて延々苦悩する」という物語。父親のみならず、親を巡っての妻との諍いなど、思うに任せない人間同士のコミュニケーションについて丹念に描いていくのはよいのだけれど、心動かされるほどの力強さには欠けていたというのが正直な感想。思うに、『螺旋』では手数で攪乱するようなところがあったのが、シンプルなストーリーになったために「語り」の骨格的な部分の脆弱さが表面化してしまったのか。この結末ありきで書かれた作品であるなら、むしろサラッと短編で読みたかった、という気がしました。
☆☆☆