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ももへの手紙(沖浦啓之)

 端的にいうと「つり橋わたれ」映画版、みたいな話でしたね。以下、感想メモです。
・開巻当初からディテールに目を奪われる。海面の映り込みの波によるゆがみのナチュラルさや、フェリーのデッキの錆具合。これは最後まで一貫していて、雨の降り始めの雨粒に打たれた石像の色の変わり方や、狭い路地で車がドアミラーを擦らないように一瞬減速する、というような演出の呼吸など、意識して観ていないとあまりの自然さにそのままスルーしてしまいそうな環境面の演出が実に冴えわたっていました。例えば『コクリコ坂から』はかなり健闘していたと思うけれど、こうしてアニメ作家の精髄を見せられるともっと突き詰める余地があると思われます。
・プロダクションデザインが素晴らしい。『サマーウォーズ』での田舎が、ぱっと見は精緻に構築されているように見えて、実際に登場人物が動き回ると「頭で考えた田舎」に過ぎなかったのに対して、実に地に足の着いた田舎が広がっていました。東京っ子の主人公も含めて、皆服装がどこかあか抜けないのもリアルでよかったですね。
・それに髪ね!海風に巻き上げられる髪、寝乱れた髪など、リアクション演出の素晴らしさ。アニメーテッドのエロティシズムよ!
・エロスといえば、(お母さんの濡れたTシャツと下乳という直截的なフェティッシュ描写もそれはそれでグッときたけど)小6の少女らしい身体つき、おじいちゃんらしい身体つき、というキャラクターの肉体の持つリアリティが映画を豊かにしていたと思います。
・と、ここまで褒めてきたのだけど、残念だった点も。劇中のクライマックスを担う百鬼夜行のものたち。なんというか化け物シズル感が足りてない・・・幼稚園児なども有無を言わせず惹き込まれてしまうような「原初的なアニメの楽しさ」を感じさせるレベルには全然達してない。(逆に言えばそれこそがジブリ、というか宮崎駿の天才たる所以なのだけど。)ちょっと「千と千尋」のパチモン感すらあって、そこが残念でした。※1
・人外の者との交感を描く、という点では『河童のクゥと夏休み』のことを思い出すと、いささか物足りない※2。物語の趣旨としては、人間とは異なった理に基づいて行動している存在との交流だからこそ心打たれる、という異化効果を期待しているはずなのに、ところがこの作品の「妖怪」たちは(特殊な外見をしているものの)宮仕えの苦労人にしか見えません。もっと脚本の段階で詰めておくべきではなかったか?
・最後に。クライマックスを除いては、これといって劇的なことが起こらない、という作劇には非常に好感を持ったのだけど、やはりいささか長すぎますね。もっと刈り込んで物理的な時間が短くなっても、映画として奥行きの感じられる時の流れは示せたのではないかと思います。とはいえ、ももが「お父さんの渡せなかった手紙」を発見する辺りから涙腺決壊だったのだけど。※3
☆☆☆1/2
※1 作画監督は『千と千尋』の人なのですが…
※2 翻って顧みるに、原恵一はきっちり脚本を作り上げて撮る訳ではないそうだけど、画の演出家としてだけではなく、脚本家としてももっと評価されるべき人だなと改めて思いました。
※3 予告で大フィーチャーされる「私、お母さんの気持ち全然わかってなかったんだ!」のセリフは、話の流れに置くと意外とあっさりでした。そういう意味では予告編の監督は巧い。
※ 割と何度も書いてきたことだけど、映画や小説にとって、四国、瀬戸内エリアというのはファンタジックなことが起こりうると思える最後の聖地なんでしょうか。意外と東北や山陰は舞台にならないですよね。